・[1] ハザード比法
最も一般的に用いられる評価手法で,予測環境中濃度(PEC:Predicted Environmental Concentration)の予測無影響濃度(PNEC: Predicted No-Effect Concentration)に対する比(ハザード比)に基づいてリスク評価をします。
予測環境中濃度は,対象の化学物質が環境中に存在する濃度の予測値で,モニタリング調査の結果や,環境への排出量データに基づく化学物質の環境中動態モデルを用いて計算されます
。PNECは毒性試験で求められるLC50や,EC50,NOECなどに安全係数(アセスメント係数)を掛け合わせたものです。
安全係数は,限られた試験データからPNECを求める際の不確実性を考慮するためのもので,その値は利用可能なデータの質と量に応じて決められます。
ハザード比が1以上の場合は,リスクが懸念されるレベルであると見なされます。
ハザード比法は,多くの化学物質の中から,詳細に調べる必要のある化学物質を見つけ出すための1次スクリーニング(初期リスク評価)において,主に用いられています。
[2] 種(しゅ)の感受性分布による評価
同じ化学物質でも種によって影響の受けやすさ(感受性)が異なります。
種の感受性分布法では,いくつかの種に対してのNOEC(または,LC50やEC50)をプロットしていき,対数正規分布などの統計分布を当てはめます。そして,95%の生物種に対して影響が出ない濃度(HC5:Hazardous Concentration)を予測無影響濃度(PNEC)として用います。
この方法は,経済協力開発機構,米国環境保護庁,EUで用いられています。
[3] 個体群レベルの評価
上記の評価手法は個体レベルでの評価ですが,個体レベルで繁殖率や生存率に影響がある場合であっても,個体群(同じ生息地における同じ生物種の集団のこと)のレベルで大きな影響を及ぼすとは限りません。
そのために,近年,個体群レベルでの影響を調べる研究が行われています。
例えば,個体数の変化を表した数式を用いて,将来の個体数を計算する事により個体数が増えも減りもしない濃度を求め,その値を個体群レベルでのリスク指標として用いることが行われています。
また,複数の種に対してそのような濃度をプロットする事により,個体群レベルにおける種の感受性分布を求める試みなどがあります。
個体群レベルの評価では,対象とする生物の生活史や,各生活史段階における化学物質耐性など,より詳細な情報が必要になります。
[4] 種間相互作用を考慮した評価
自然界では,多くの生物が影響し合って生きています。
化学物質の影響を直接にはほとんど受けない種も,餌である生物が化学物質により減少してしまえば,その種も影響を受けてしまいます。
このように,個々の生物種への化学物質の影響を別々に考えていただけでは予測できない影響もあり,それを評価する手法は重要であると言えます。水生生物の食物連鎖を介した,化学物質の間接的な生態系影響を予測する生態系シミュレーションモデルとして,CASM(Comprehensive Aquatic Systems Model)などが知られています。
生態リスク評価を行う上で,化学物質の暴露濃度と生物に対する有害反応の大きさとの関係を明らかにする毒性試験は大変重要です。
あらゆる種に対する毒性データに基づいて,種間相互作用を取り入れた評価をおこなうのが理想と言えます。
しかし,現実的には,存在する化学物質の種類や野外生物の種数も膨大なので,限られた情報の中から適切な評価を行う必要があると言えます。
(よこみぞ ひろゆき,環境リスク研究センター
生態リスク評価研究室)