・3。スミチオン中毒
中毒の時は、頭痛、頭が重い、はきけ、体がだるい、汗がたくさん出る、鼻やのどが痛む、気持ちが悪くなる、食欲がないなどといった症状がでます。
スミチオンの急性中毒は他の有機燐系の農薬とほぼ同じです。
スミチオンが吸収される組織にまず局所作用が出現し、吸収量が多い場合は全身症状を示します。
蒸気吸入後、数分以内に目、鼻、のど、気管などに局所症状が発現し、多量に吸入した場合には30分ぐらいで全身症状が出る。
またスミチオンは油に溶けやすい性質を持つために脳の中に簡単に入りやすく、精神症状も出現します。
また中毒症状発現が遅れる場合もあり、また中毒症状が70日も続いた例もある(月本他、1981)。
スミチオンは体内での分解が早いので安全だと言われているが、しかし実際は投与後5日以上も生体中に残留しており、アセチルコリンエステラーゼの異常は長い期間続くことが知られています(浅沼他、1972、1978)。
一旦中毒をおこすと、バラチオンなどよりも病気が長引き、解毒剤であるPAM(パム)だけで簡単に治療するというわけにはいきません。
このために治療も難しいことが指摘されています(平木・岩沢,1973)。
スミチオン中毒について以下に述べる事は、いままでに知られている事であって、このような障害しか起こらないのではありません。
このような研究は遅れており、まだ分からない事のほうが多いともいえます。
このために、このほか何が起こるか分かりません。
1)局所症状
縮瞳、毛様体痙攣、結膜充血、鼻汁分泌、気管支分泌増加、気管支閉塞、発汗、骨格筋の線維性収縮などがみられる。
[皮膚障害]
スミチオンによる皮膚障害についてはスミバイン普及会のスミパイン乳剤に関する技術レポートでは起こらないとしているが、最近ではほとんどの研究者がスミチオンによるかぶれがおこることを指摘している。
スミチオンによるかぶれは、通常使用している濃度(1000倍希釈)ではもちろん、その1/10でもおこることがわかっている。
農薬で皮膚炎をおこした原因農薬のなかでは13位であり、また23.5% の人間に皮膚炎をおこす。
モルモットによる動物実験でもスミチオンがアレルギー性皮膚炎を起こすことが証明されている(松下他、1981、堀内他、1981:岡部他、1981、1982)。空中散布に使われているスミチオンは野菜等に使われているスミチオンの40-80倍ほど濃い。
このため皮膚障害の憎悪が起こりやすい。
2)全身症状
局所作用の憎悪やその他の症状が見られる。
a.ムスカリン様作用
気管支閉塞、気管支分泌増加、胃腸管痙攣、胃腸管運動亢進、嘔吐、下痢、発汗、唾液分泌増加、流涙の増加、徐脈、血圧降下、尿意額数、縮瞳、毛様体痙攣などが認められる。
b.ニコチン様作用
自律神経節刺激によるムスカリン様症状の修正が起こり、さらに骨格筋の攣縮、線維性収縮、疲労、筋力減退、呼吸筋麻痺も起こる。
c.中枢神経症状
スミチオンのように脂溶性のものがこの作用が強い。興奮、不眠、頭痛、振戦、精神病様行動、痙攣、昏睡、呼吸困難(中枢性麻痺)、チアノーゼ、血圧低下等が認められている。
3)脳に対する影響
有機隣系農薬や同様にアセチルコリンエステラーゼを阻害する薬品を人間に作用させると、気分(ムード)や認識力の低下や行動などに変化が現れるという(Risch, 1980)。
自発的な行動や思考速度の低下、友好性や意気の減少、無関心、緊張、不安、疲労、錯乱、困惑、判断力の抵下などが起こり、更には記憶作用をも攪乱すると言われている(Suire, 1981)。 Russe1 (1982)によると、抗コリンエステラ-ゼ剤は他の病理学的異常を引き起こすよりも、行動等の異常を起こしやすいと述べている。
[脳の活動に対するスミチオンの影響]
スミチオンは脳に入りやすい
脳には外から有害な物質が入ってくるのを防ぐ働きがあるが、油に溶けやすい物質は脳の中に入りやすい。
スミチオンは油に溶けやすいために脳のなかにはいりやすい。
スミチオンを投与すると、脳の中のスミテオンの濃度は血液より3.8~7.4 倍も高くなり、一度脳の中に入ると5日後にも残っている。
またコリンエステラーゼもなかなか回復しない (浅沼他、1972, 1978)。
また幼児や小児では脳の中に有害な物質が入ってくるのを防ぐ血液-脳関門の発達が未熟であるため、未熟な者ほど抗コリンエステラーゼ剤の影響を受けやすいと報告されている(Sujr8,1981)。
スミチオンを投与すると脳波に異常が現れる。
スミチオンは弱毒性と言われている。しかし、脳に対する働きはより毒性の強いマラチオンより強いことがわかっている。
またウサギよりも人間に近いサルのほうがスミチオンの影響を受けやすいことも知られている。
また繰り返してスミチオンを投与すると脳波に対する影響は強まる(瀬口・柳沢、1972;堀口他、1978)。
堀口他(1978)は、集団検診では有機燐系農薬を多用する人々の30~50%の人に異常脳波が認められ、農薬を使用しない人には異常脳波は認められないという。異常脳波を示す人は年々増えているという。
スミチオンの中毒後800日後でも慢性精神症状(記銘力低下と知能水準低下)が残っており、脳波異常も続いていることが報告されている(神岡、1980 。こ) のことは中毒から回復したように見えても脳の機能は回復していないことを示している。
さらに脳組織等にも回復不能な障害(視床下部の細胞脱落、大脳皮質のグリア増殖、小脳のブルキシエ細胞の萎縮・脱落、脊髄の神経細胞の脱落)等が起こることが、イヌで行われたスミチオンの長期微量投与実験で報告されている(阿部他、1984)。
発作波(脳波)出現閾値mg/kg b.w. (ウサギ)
農薬名薬量・静注経口LD50 (ネズミ)
マラチオン550 450 369
スミチオン450 1250 788
スミチオンによる中毒例(松島、1972)
スミチオンを散布している防疫会社の従業員の中毒の例で慢性的
な神経障害が起こったと考えられる3例。
1)25才男子
ゴキブリ退治のため、スミチオン散布に従事。
散布はほぼ毎日2~3 時間、手動式噴霧器で行う。
全身倦怠感、疲れやすい、なにもやる気がしない、食欲不振、悪心、口の中が乾いて舌がよくまわらない、体重減少などの症状がでてきた。
記銘力検査で若干の低下が認められる。
2) 21才男子
ゴキブリ退治のため、スミチオン散布に従事。
散布はほぼ毎日2~3 時間、時には8 時間以上。
散布を始めて1-2 ケ月で全身倦怠、疲れやすい、何もやるきがしない、ものを考えるのがおっくう、口の中がかわいて舌がまわらない、目の奥が痛い、体重減少などの症状がでてきた。
3)29才男子
1 日2時間ほど散布をしていた。
1年後ぐらいから、全身倦怠感、
疲れやすい、思考力がなくなる、考えるのがおっくう、ものおぼえが悪くなる、口の中が乾く、頭痛、体重減少などがみられ、散布をやめても症状は変わらない。