・化学伝達物質としてアセチルコリンを用いるコリン作動性神経伝達物質系は、2 つの型さどうの受容体を含んでいる(ムスカリン性とニコチン性。ムスカリン(ある種のキノコから抽出することができる化学物質)とニコチンによって選択的に刺激されるために名付けられた)。
両型の受容体は中枢神経系中に存在し、脳発達におけるそれぞれの役割は次第に注意が集まってきているが、依然として相当の情報が欠けている。
ムスカリン性 ACh 受容体の正常発達は、後の学習と認識に重要である3。
最初に神経伝達物質は DNA 合成と細胞増殖を促進する4。
遅れて、シナプスと神経活動増加とともに、同じ伝達物質はより特殊機能を持った神経細胞に、神経細胞の分化を促進する。
一般に、コリン作動性ニューロンは非コリン作動性構造と連絡することが多く、重要な役割はほかの型のニューロン活動を調節することであると研究者が結論を出すように導いている。
例えば、あるニューロンから放出された ACh は、ほかのニューロンのレセプターで作用し、ノルエピネフリンやドーパミン・GABA・セロトニン・グルタミン酸・アセチルコリンの放出を調節する5。
脳は、妊娠後期と新生児期の間に、急速な構造的機能的変化をする。
認識機能と行動は多数の源から生じ、一つ以上の神経伝達物質と一つ以上の脳の部位に依存する。
注意や記憶・言語技術・学習能力・行動は、文化的社会的力とともに、多数の構造的・機能的要素の統合の結果である。
これらの複雑な相互作用は、各因子の寄与を独立に研究することを極度に困難にする。
また、これらの複雑さは、環境因子が役割を担っているか、いつ、どの程度かを、研究し、理解することを困難にしている。
また、異なる専門的関心は、人間行動と認識能力を理解しようとして、異なる専門分野の研究者の、様々なアプローチを説明することに役立つ。
発達神経毒物学
鉛や水銀・農薬・その他を含む発達神経毒物は、正常な脳発達に必要な何かの過程に直接干渉するのであろう。
細胞分裂や移動・分化・シナプス形成・アポトーシスは加速されたり遅らされたりするだろう。
髄鞘形成も毒物被ばくや栄養欠乏によって変えられるだろう6。
鉛やアルコールのような一部の神経毒物は、種々の機構を通じて神経突起の正常な発達に干渉する。
髄鞘形成やシナプス形成・アポトーシスなどの独特な発達過程は、少なくとも思春期を通じて遺伝的環境的制御の下で続く7。
毒物被ばくのタイミングや型・レベルは、脳のどの部位がどのくらい影響を受けるかを、大きく決定する。
発達の様々な段階は、化学物質に対する被ばくが持続的な悪影響を脳機能に与えるだろう、影響を受けやすい重要な窓を作る。
被ばく時に影響を受けやすい神経発達の出来事が起こっている脳の場所によって、同じ因子に対する時期が異なる被ばくにより、異なる学習あるいは行動影響が生じるであろう。
例えば、一部の毒物は間接的に、正常な胎盤機能に干渉することにより作用し、臍帯循環を変化させたり、一般的成長の遅れを生じたり、ホルモンの機能や代謝を変化させる(ホルモンかく乱物質)。
しかし、直接毒性と間接毒性の区別は実用的な重要性がない。
というのは子供はそれでも障害を受けるからである。
また、神経毒物は大人では最小限のあるいは一過性の影響がない被ばくレベルで、脳の発達とその後の機能に干渉することを、心に留めておくことは非常に重要である。