・除草剤と殺菌剤との組み合わせによるパーキンソン様行動と病理状態の発生
最近の別な研究は個々の物質の投与ではパーキンソン病が発症しないが、組み合わせると発症するという結果を示している (5)。
除草剤パラコートへの職業被ばくとパーキンソン病とが関連するという報告がある。
実験動物にパラコートを投与すると、血液脳関門に妨げられはするが脳内に侵入することが知られおり、脳のドーパミン作動系に悪影響を与える。
ジエチルジチオカーバメート系の殺菌剤は、先に述べたMPTPのドーパミン作動系に対する毒性を増強することが知られている。
この系統の殺菌剤の一つ、マネブは歩行運動を減少させることが知られており、MPTPの影響も強める。
このようなことから、サルチェルバンThiruchelvamらはパラコートとマネブをマウスに投与して、パーキンソン病との関連を調べた。
食塩水やパラコート(10 mg/ kg)、マネブ(30 mg/kg)、あるいはパラコート+マネブを週2回6週間投与し、最終投与後1時間から7日後に殺した。
マウスの運動は注射1、4、8、12回目に測定した。
注射直後にパラコート+マネブを投与した群で有意に低下し、12回目には対照群(食塩注射)の9%になった。
注射後24時間の回復する時間を与えて運動を測定した場合、注射1、4、8回後は有意な減少は見られなかったが、注射12回後には有意な減少が見られた。
神経伝達物質ドーパミンを作るのに必要な酵素、チロシンヒドロキシナーゼを投与終了3か月後に測定した場合、パラコート+マネブ投与群のみが有意な低下を示し続けていた。
その他に、パラコート+マネブ投与群のみが黒質の細胞数減少を招くなど、人間のパーキンソン病で見られる病変が見られた。
これらの結果は、パラコートとマネブが黒質線条体ドーパミン作動系に対して相乗的に働き、その作用は被ばくが継続すると進行性であり、不可逆的であることを示している。
黒質の細胞に選択的に作用するメカニズムは不明である。
実際の被ばくは投与量よりは小さいと考えられるが、著者らは、実験は6週間でしかなく、人間の被ばくはずっと長引くことを指摘している。
パラコート+マネブ投与の影響は先に述べたように累積的であり、長期間回復しない。
ジチオカーバメート系殺菌剤とパラコート除草剤を使う地域が重なり合うこと、また両者が食品に残留していることが指摘されている。
著者らは個々の物質のリスクアセスメントは単一の物質の無影響レベルに基づくが、個別に投与した場合はわずかな影響しか示さなくとも、組み合わさると相乗効果を示す場合があるので、リスクアセスメントは見直すべきであると主張している。
このような被ばくだけでパーキンソン病を発症させるとは思われないが、過敏な遺伝的素因の人が被ばくするといった遺伝子・環境相互作用などが病因となると考えている。