DDVP(ジクロルボス)論文11 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

・慢性毒性
Raheja and Gill (2007)はDDVP 慢性被ばくラットの脳で、セカンドメッセンジャー系とコリン作動性代謝やムスカリン性受容体の変化との関係を調べた。
DDVP (6 mg/kg/日)を8 週間慢性投与で、体重増加は減少するが、餌の摂取は変わらなかった。

アセチルコリン合成酵素活性は増加し、加水分解酵素活性は阻害された。また高親和性と低親和性のコリン取り込みは減少した。

ムスカリン性受容体結合は、受容体の親和性は変化しないが、受容体数減少を反映して減少した。

またDDVP 投与はアデニルサイクラーゼ活性低下で示されるサイクリックAMP 合成阻害と脳内サイクリックAMP レベルとの減少を起こした。
以上の研究は、有機リンがムスカリン受容体が関係するセカンドメッセンジャー系に作用することを示し、これが低レベル有機リン被ばくによる神経への有毒な作用の潜在的メカニズムかも知れない。

このことはコリン作動性過剰興奮では説明できない(Raheja and Gill 2007)。
慢性DDVP 被ばく(6 mg/kg、皮下、12 週間)が神経変性を起こすが、Kaur et al. (2007)はメカニズムを明らかにしようとし、ミトコンドリアが細胞のエネルギー生産や酸素消費の主な場所であるので、有機リン中毒の標的であると考えた。
DDVP 投与はラット脳ミトコンドリアのカルシウム取り込みの増加を招き、ミトコンドリア呼吸酵素活性を減少させき、その結果マロンジアルデヒドなどの増加および、脂質の過酸化の増加やタンパク質とミトコンドリアDNA との酸化を招いた。

これらすべては酸化ストレスの増加やGSH レベルの減少などによるものである。
上記のように慢性有機リン被ばくは細胞の抗酸化防御系を妨害し、それがミトコンドリアからのサイトクロムC の放出やカスパーゼ3 活性化を招く。この結果アポトーシスが誘導される。

このように低レベルDDVP 慢性被ばくがミトコンドリアのエネルギー生産を妨害し、アポトーシスによる神経変性を招く証拠であると、Kaur et al. (2007)は考えた。


6.生殖・内分泌系への影響
発情サイクルへの影響
生まれてから連続してDDVP 蒸気被ばくしたラットでは最初の発情周期の開始が平均で10 日間遅れ、この遅れは統計的に有意であった(Timmons et al. 1975)。

精子形性への影響
比較的少量のDDVP を生後4 日と5 日に(それぞれ20 mg/kg)、又は生後4 日から24 日に10mg/kg を未熟な雄ラットに投与した。体重の変化はなかったが、精巣重量や精細管の直径・精子になる細胞・セルトリー細胞数・ライデッヒ細胞数が減少した(Krause et al. 1975)。

このメカニズムは、男性ホルモン合成が減少したことによると考えられている(Krause et al. 1976)。
成熟したラットにDDVP を2 日又は3 週間経口投与した。体重や精巣重量は変化しなかった。
DDVP 投与後に見られた精子形性障害はホルモンを媒介するのではなく、直接的な細胞毒性によると考えられた(Krause 1977)。
このように発育段階によって精巣に対するDDVP の影響が異なる可能性がある。
90 日間雄ラットの皮膚にDDVP(30 mg/kg/日)を塗布した。

中毒症状や死亡はなかったが、精巣と肝臓の組織に細胞の病変が見られた。

細胞障害の程度とDDVP 投与期間とには性に関係があった。30 日以上投与したラットで障害は顕著であった。

精巣は精細管の変性を示し、ライデッヒ細胞はほとんどなかった。

肝臓細胞は充血し、萎縮し、様々な段階の壊死的変化を示した。
このことはDDVP を取り扱う間に労働者のために、強い注意が必要であることを示している(Ali and Abdalla 1992)。
精巣から出ていく精子に細胞質小滴があり、細胞質小滴は精巣上体から尾部に行く前に成熟に伴い放出される。

この細胞質小滴にはP450 アロマターゼ活性があり、アンドロゲンからエストロゲンを合成する。
Akbarsha et al. (2000)は3 ヶ月令のラットにマラチオンやジクロルボス、薬草センシンレン成分アンドログラホリド、ウツボグサの花穂成分ウルソール酸を投与した。

この結果、尾部管腔中にある精子の50-95%に小滴が見られ、尾部から出てくる精子に運動性阻害が見られた。これらの有毒な作用メカニズムは、精子が細胞質小滴を持ち続けているために精子の運動性が損なわれるためであろうと考えた。
有機リン被ばくと精子の運動性低下は関係があるとされていが、良く分かっていない。
Okumura et al. (2009)はラットにDDVP やダイアジノンを投与し、有機リン被ばくと精子の運動性や形態、精子アデニンヌクレオチド含量、精巣や精巣上体の組織病理を明らかにしようとした。
DDVP とダイアジノンは精子の運動性を低下させたが、アデニンヌクレオチド量に変化はなった。

有機リンは壊れた精子の割合を増加させ、DDVP は細胞質小滴の割合を増加させた。

上皮小体では有機リンは上皮細胞の細胞質空胞や核の収縮を起こした。精巣には変化が見られなかった。
この結果は精子毒性は上皮小体の組織学的障害に関係することを示すと、Okumura et al. (2009)は考えた。
市販の果物や野菜に数種の農薬が残留している。ブラジルのPerobelli et al. (2010)はDDVP やペルメトリン、ジコホル、エンドスルファン、デルドリンなどの低レベル農薬の生殖毒性を検討した。

ここれらの実験で無影響量の農薬投与は精子形態などに農薬は影響を及ぼさなかったが、無影響量の農薬を混合して投与した場合、は精子の運動性に影響を及すことを報告している。
フェニトロチオン(スミチオン)などの有機リン剤は男性ホルモン受容体に影響を及ぼすことが知られているので、DDVP でも注意する必要がある。(フェニトロチオンを見よ)

ライデッヒ細胞への影響
ライデッヒ細胞は精巣にあり、アンドロゲンを分泌する。

妊娠ラットにDDVP を投与すると、雄の子どもの精巣内にあるライデッヒ細胞のアポトーシスを誘導すると、Zeng et al. (2009)は報告しており、それは1 mg/kg のDDVP 投与では生じなかったが、4 mg/kg 以上の投与で起こった。

尿道下裂
DDVP はラットで尿道下裂を起こす。

Haung et al. (2006)はDDVP が尿道下裂を起こすメカニズムを調べた。

ラットに妊娠12 日から17 日まで1 日に10 mg/kg のDDVP を投与し、対照には1.5mg/kg の食塩水を投与した。

DDVP 投与群の母ラット20 匹から生まれたの雄の子どもの88 匹中22 匹は尿道下裂であったが、対照の雄の子どもに尿道下裂はなかった。

成熟児の組織学的検査で、尿道下裂の雄ラットの精巣中ライデッヒ細胞数は対照よりに減少したが、輸精管の数や形態に差はなかった。

カルレチニン*陽性ライデッヒ細胞は尿道下裂ラットで激しい減少を示した。
これらのことからDDVP はライデッヒ細胞に鍾愛を与えることにより、テストステロンレベルを減少させ、このために尿道下裂が起こると思われる。
*カルレチニン:ビタミンD 依存性カルシウム結合タンパク。細胞内信号伝達に関与する。

中皮腫のマーカーとして用いられる。

子宮内膜症の誘導
ラットでDDVP 投与は子宮内膜症を発症させる。

酸化ストレスのマーカーとして知られているマロンジアルデヒドがDVP (4 mg/kg)投与マウスで増加する。

DDVP 投与ラットにビタミンEとビタミンC とを投与すると、子宮内膜の障害やマロンジアルデヒドレベルを改善させる効果があると報告されている(Oral et al. 2006)。

前立腺への影響
Trancouver et al. (2007)はアンドロゲン受容体活性に影響を与える要因をスクリーニングする系を前立腺腫瘍細胞系を用いて開発し、この系を用いてDDVP がアンドロゲン活性を高めると報告した。

このことは前立腺癌などの治療や予防を考える上で重要なことだろう。

繁殖への影響
マウスの外部寄生虫駆除のためのDDVP 蒸気被ばくが繁殖中断を生じるかを調べるために、種々の濃度のDDVP 蒸気に曝し、繁殖結果を調べた。全ての被ばくレベルで10 日までの間処理したマウスで血漿コリンエステラーゼ濃度の低下が見られた。

DDVP は被ばくしたマウスで生殖に影響を及ぼさない(Casebolt et al. 1990)。

副腎皮質への影響
DDVP 投与したマウスで副腎への影響が見られている。

投与後副腎重量の有意な増加が見られ、ノルエピネフリンとエピネフリン含量は減少した(Ramade and Roffi 1976)。

腎臓への影響
ウサギでDDVP による腎臓への影響が報告されている(Cao et al. 2006)。
甲状腺への影響DDVP(5 mg/kg/日)を90 日間投与すると甲状腺と副腎でDNA とRNA・タンパク質含量の日周リズムの変化とDNA リズム振幅の顕著な減少が起こる。

精巣ではリズムの変化はなかった。
代謝されてDDVP に変化することが知られているトリクロルホンに慢性的に曝したラットで甲状腺と副腎の構造で大きな変化が起こる。

甲状腺のDNA とタンパク質及び副腎のRNA 含量の日周変化などの変化があった(Nicolau 1983)。