・【解説】
1 ペットの飼育と不法行為
今回は、ペットの悪臭対策として散布した薬剤により健康被害が発生して不法行為の成立が認められたという裁判例を取り上げました。
ペットを巡る公害事例では、ペットブームを受けて多様な事例が見られるようになり、最近ではペット火葬場から発生する煙による健康被害が問題になった事例などがあります。
マンション居室内でペットが飼育されている場合においては、ペットの鳴き声による騒音、糞尿の悪臭などが典型例ですが、本件のように、悪臭対策のための過度の薬剤散布が問題になったこともあります。
これらのペットに関する公害において不法行為が成立するかどうかは、その他の公害における場合と同様に不法行為の各要件―(q加害行為、w故意又は過失、e他人の権利又は法律上保護される利益の侵害(違法性)、r損害の発生、t加害行為と損害の発生との間の因果関係)―を満たすがどうかで判断することになります。
2 過失の有無について
本件で裁判所は、上記w「故意又は過失」の要件の有無について、Yらがクレゾール水溶液でy居室のベランダを拭き掃除した行為について、過失があったと認定しています。
ここで、一般的に行為者に過失があったといえるためには、(¡)行為者が被害者に対する関係で注意義務を負っていること、(™)相手方が注意義務に違反する行為をしたことが必要になります。
まず、(¡)の行為者が負う注意義務の具体的な内容は、個々の事案における具体的な事情によって異なり、その内容を判断するに当たっては、難しいことが多々あります。
本件で裁判所は、クレゾールの危険性や使用目的に着目した上で、「(猫の消臭)目的によるクレゾール散布に当たっては、人体にとって十分に安全な程度にまで適切な希釈を施すことはもちろん、散布の場所、方法、量等を含めて、必要かつ十分な注意を尽くす義
務がある」と判断しています。そして、(™)相手方が注意義務に違反する行為をしたかどうかについて、裁判所は、Yらは、クレゾールを目分量で薄めたに過ぎず、しかも丹念にベランダの拭き掃除をしたという点で、前記のとおりの注意義務を怠ったとして、Yらに過失があったと認定しています。