先天障害
ダイオキシン投与により実験動物で口蓋裂が発生することが知られています。
マウスでは口蓋裂を生じる投与量は母体や胎児で毒性が現れる量よりかなり少なく、成長因子の受容体により仲介されると考えられています。
マウスでは、胎児が死なない程度の被曝量で水腎症の発生が見られています。
生後4日以前ではマウスで水腎症の発生が見られました。
これは上皮細胞増殖により尿管が閉塞したためであると考えられています。
このことは他の動物でも見られています。
胸腺の萎縮
胎児あるいは母胎に毒性が現れる投与量よりはるかに少ないダイオキシン投与で胸腺の萎縮が現れます。
この現象はラットやモルモット・ハムスターで同じような投与量で見られ、成熟した動物の致死量の1000分の1程度で起こります。
人間でも生じる可能性があると考えられています。
成熟した動物では、体重減少などの明瞭な毒性を示す量でしか胸腺の萎縮は現れません。
ダイオキシン投与により膵臓が萎縮することが知られています。
膵臓の萎縮も胎児では敏感です。
動物実験ではこの他にも多くの障害が発生することが知られていますが、人間の場合には余り良く分かっていません。
男性被曝による子どもへの影響
男性がダイオキシンに被曝すると子どもに先天性障害が発生することが報告されています。
1996年、米国のブリテッシュコロンビア大学医学部のミッチワードらのグループは、木材防腐剤としてダイオキシンに汚染されたクロルフェノールを用いた製材所労働者の子ども約2万人を調査しました。
この結果、目の先天性障害、特に先天性白内障のリスクが高いことが分かりました。
また、特定の時期の被曝では無脳症や二分脊髄、生殖器の先天性奇形が増加していました。
ベトナム復員兵
ベトナム戦争では高濃度のダイオキシンにより汚染された枯れ葉剤が散布されました。
ベトナムではダイオキシンにより重度の先天性障害が発生したことが報告されていますが、実体の解明は進んでいません。
ベトナム戦争で枯れ葉剤散布に従事した復員兵の子どもは、d散布に従事しなかった復員兵の子どもより、先天性障害が多いことが報告されています。
非散布復員兵の子どもと比較して、散布従事復員兵の子どもで先天性障害が発生したのは、戦争に行く前では0.85倍でしたが、復員後は1.39倍と多くなりました。
ベトナム復員兵の子どもの先天性障害には、神経系(例;d水頭症)や心臓・生殖器官・尿路の異常、口蓋裂、内反手と内反足・四肢奇形・二分脊髄・先天性の癌などが報告されています。
オーストラリア人の復員兵の研究では心臓障害とダウン症、学習障害などが報告されています。
この他に手のひらの異常や皮膚のくぼみ、脱色などの軽度の障害も発見されています。
この他に復員兵には、精神症状として疲労感・怒り・不安・孤独感が見られ、他に肝機能低下や肝肥大・心血管系の異常・内分泌系の異常が見られていました
神経発達障害
1995年、グロニンゲン大学のヒュイスマンらのグループは、オランダの小児418人を母体内でのPCBやダイオキシン被曝および母乳を通した被曝が神経の発達におよぼす影響を調べました。
半数の子どもは母乳、残り半分は人工乳を飲んでいました。
誕生前のPCB類被曝を知るために、臍帯と母親の血漿中PCB濃度を調べました。
誕生後の被曝は、母乳と人工乳のPCBとダイオキシンから調べました。
胎盤経由のPCB被曝は 18カ月で神経学的状態と負の相関が見られましたが、母乳によるPCBやダイオキシン被曝の影響は見られませんでした。この結果から、母乳は摂取しても誕生後の神経学的な発達に影響がないため、母乳を摂取しても良いと結論を下しています。
1996年、オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学のコープマン=エッセブームらのグループは、母胎内や授乳期にPCBやダイオキシンに被曝した場合の乳幼児の知能および精神運動的発達に対する影響を調べました。
生後3カ月の検査では、母胎内のPCB類被曝が高いと精神運動スコアが減少することが分かりました。
人工乳と比較して、母乳を与えている場合、7カ月では精神運動スコアは高いことがわかりましが、PCBレベルが倍になると人工乳と差はなくなりました。母乳の場合は知能も高いことが分かっています。
この観点からは、母乳を与えても良いとされています。