ネオニコチノイド系農薬 規制強化求める声
中日新聞 2010年4月26日
新型の「ネオニコチノイド系農薬」の規制強化を求める声が、環境団体などから上がっている。
従来の農薬に比べ毒性が低いとされ、使用が広がってきたが、ミツバチ大量死との関連や、人への健康被害が懸念されだした。
◆ミツバチの異変懸念
「国が認めた農薬でも、目の前でハチが死んでいく。どうしたらいいのか」。
ネオニコチノイド系農薬への規制を求め、今月二十一日、環境団体「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」が東京都内で国会議員ら向けに開いた学習会。参加した岩手県の養蜂(ようほう)家で、日本在来種みつばちの会の藤原誠太会長は、こう危機感をあらわにした。
藤原会長は、同農薬が水田などで頻繁に使用されるようになってから、各地でミツバチの大量死が起きていると報告。
長崎県の養蜂家も「二十年以上飼ってきて初めての被害」と訴えた。
中枢神経に作用する同農薬は、昆虫を興奮状態にして方向感覚を狂わせ、筋肉を収縮させて殺す。
従来の有機リン系農薬などに比べ毒性が低いとされ、一九九〇年代から使われるようになった殺虫剤だ。
水田のカメムシ防除や松枯れ防止、園芸用や床下のシロアリ駆除剤など用途は広がっている。
大手農薬メーカー調査では、世界の殺虫剤出荷額の約16%を占め(二〇〇五年)、最多の有機リン系農薬に次いで多い。
環境への影響が懸念されたのは、ミツバチの異変がきっかけ。
岩手県で〇五、〇六年、水田にネオニコチノイド系農薬を散布した後、周辺のミツバチの大量死が相次いだ。
全国で昨年から顕著になったミツバチ不足も、同農薬が原因の一つと疑う養蜂家がいる。
ミツバチ不足に関して、畜産草地研究所(茨城県つくば市)が今月まとめた調査研究報告書は、その原因を特定しなかった。
ただ、同農薬の被害で死んだとして、養蜂家が持ち込んだミツバチの死骸(しがい)の九割から同農薬が検出されたとの分析結果が、併せて報告されている。
◆心配される人体被害
人の健康被害への懸念も出ている。
同農薬は、低毒性とされながら、心拍数の増加、血圧上昇、吐き気・嘔吐(おうと)、けいれんなどの中毒症状があるからだ。
「近くで殺虫剤をまいた後や、(同農薬が付着した恐れがある)果物やお茶をたくさん摂取した後に、動悸(どうき)や震え、もの忘れ、せきなどの症状が出る患者が増えている」と、化学物質と健康被害について研究する前橋市の青山美子医師は指摘する。
青山医師は一昨年、こうした患者四十九人を東京女子医大東医療センターの平久美子医師と共同で調査。
尿から、同農薬が分解されてできる物質が検出された七人については、農薬による中毒症状だとみている。
これに対し、農薬工業会は「国で登録された、安全性の保証された農薬だ」と反論。
厚生労働省も「健康に影響のない残留基準値を厳しく設定している」とする。
だが、国内の残留基準値は欧米に比べて数十~数百倍緩いのが現状。
フランスでは、ミツバチへの被害が疑われた段階で政府が使用を禁止し、原因調査を始めた。
「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の中下裕子弁護士は「残留基準値を見直し、ミツバチや子どもの脳の発達に及ぼす影響も含め、国は調査を」と話す。
農薬中毒に詳しい筑波大名誉教授の内藤裕史さんは「人類が初めて接する農薬。
体内での分解の仕方など未解明な部分が多いのに、普及が先行している。
影響調査を十分に行い、使用は慎重に行うべきだ」と訴える。