毒を貯める植物 -植物はなぜ重金属を貯めるのか?-3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・これまでの研究でハイパー・アキュミレーター植物は汚染物質の存在下において,汚染物質の非存在下に比べて生育が良くなる事例が確認されています。

また,留学中に行った他の研究結果からスタンレヤ・ピナータはセレンのない場合に植物ホルモンであるエチレン・ジャスモン酸・サリチル酸の合成を介して害虫に対する防御タンパク質を生産していることが明らかになっていました。

これらのことからスタンレヤ・ピナータがセレンの有無にかかわらず害虫抵抗性を示すことに対して以下のような仮説を立てました。

すなわち,セレンが存在しない土壌に生育しているスタンレヤ・ピナータはエチレン・ジャスモン酸・サリチル酸の合成を通して害虫に対する防御タンパク質を生産しており,それにかかるコストの代償として生育が悪くなる。

一方で,セレンが存在する土壌に生育しているスタンレヤ・ピナータはセレンの毒性により害虫からの食害を防ぐことができるため防御タンパク質の生産を止め,その分のエネルギーを生育に回すことができるというものであります。
このことを検証するためにスタンレヤ・ピナータのセレン添加に対する生育実験を行いました。

スタンレヤ・ピナータを半分はセレンを含み半分はセレンを含まない土壌で生育させたところこの植物はセレンのある土壌に向かって根を伸長させ(写真3),更にその生育はセレンがある場合の方が無い場合に比べて,2倍以上良くなることが明らかになりました。

またセレンを与えたスタンレヤ・ピナータの葉では防御タンパク質を作らせる働きがある植物ホルモンの合成が止まっており,それに伴って防御タンパク質が作られないことも分かりました。

以上のことから,スタンレヤ・ピナータはセレンのない場所で生育した場合には生育のためのコストを使ってまでも害虫防御タンパクの合成を行っており,セレンが豊富な環境では害虫防御タンパクの合成を止めて,その分余ったエネルギーを生育に回すことにより良く生長することが示されました。

このようにハイパー・アキュミレーター植物の重金属の蓄積による食害からの防御は過去の文献からも予想されましたが,重金属が無い場合の生育を,食害からの防御コスト及び生育コストと関連づけた研究は前例がありません。私たちのグループによる研究成果は他のハイパー・アキュミレーター植物がなぜ汚染物質を必要以上に貯め込むのかについてのヒントを与えてくれるかも知れません。

なお,この研究はコロラド州立大学のピロン・スミス助教授の指導の下,ポスドクのジョン・フリーマン,大学院生のコリン・クインとの共同で行われました。

写真省略
この植物はセレンのある方向(右)に根を伸長させていることがわかる

(たまおき まさのり,生物圏環境研究領域
生態遺伝研究室主任研究員)

執筆者プロフィール:
アメリカで一年研究生活をして感じたことは,アメリカの研究者は良い研究は褒め,良くない研究は遠慮無く批判することです。他の人の良い仕事をしっかりと褒めることができる度量が自分には足りないことに気付かされました。