ダイオキシンによる生殖機能の異常はどのくらい低い濃度で起きるのか?2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・AGDというのは図1にも写真で示したように,フニャフニャな体の小さな実験動物の下腹部をノギスでもって“エイヤッ”と測るものである。

また,前立腺というのも素人ではいったいどこが境目か見当が付かない。

したがって,これらの距離や重量が統計学的になんとか低いと認められるデータというのは,いったいどのくらい信頼できるのかとの指摘をよく受ける(この研究所の関係者からさえも)。

だが,いくら遺伝的に均一な動物を使用したからと言っても,生まれてくる仔の体重や臓器重量にはばらつきがある。これは動物実験を行う者には常識で,遺伝的要因よりもその個体が生まれ育っていく際の環境要因のほうが,その後の成長にかなり影響すると言うことを意味している。

環境ホルモン研究で対象となる“指標”は,そのような個体ごとの変異の多い部分の微かな変化ばかりだ。

したがって,幾重にも追試をしていくことが要求される。我々の上記のデータは,過去のデータを一部否定し,一部再確認するものだった。

しかも,影響の出た用量(50 ng/kg)がかなり低かったこともあり,2001年のWHOとFAOの合同専門委員会でダイオキシン類の暫定耐容一ヵ月摂取量の算出根拠として採用された。

上記の遺伝子発現解析が示唆に富むものだったためだろう。

ただ,この専門委員会メンバーもこの現象がどのくらい“悪い”影響なのか疑問に思っているかもしれない。

実際,このようにして生まれた仔が,AGDの短縮と前立腺重量の減少が原因で次世代が作れないことはないし,このようなダイオキシンの曝露が原因で「未来が奪われる」とはちょっと考えにくい。

いずれにせよ,AGDの短縮と前立腺重量の減少は,ダイオキシンによる健康影響の中でも最も感受性の高い(最も低い用量で起きる)現象であるため,今後もその発生メカニズムを含めて検討していく必要があろう。

その後,我々は,AGD短縮や前立腺重量減少が起きる感受性時期は,ラットの場合妊娠15日周辺で,妊娠後期の18日投与や出産後の新生仔への投与では起きないことを確認した。

また,この現象が引き起こされる原因遺伝子がダイオキシン受容体であるアリールハイドロカーボン受容体(AhR)遺伝子依存性であることを遺伝子破壊マウスを用いて証明し報告している。

(おおさこ せいいちろう,環境健康研究領域)