・シンポジウム1
化学物質過敏症
司会者:石川 哲1),西岡 清2)(北里研究所病院臨床環境医学センター1),東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科環境皮膚免疫学2))
5.治療と対策(患者の治療)
坂部 貢
北里研究所病院・臨床環境医学センター
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化学物質過敏症の治療手順は,・原因物質の排除,・身体状況の改善と体内からの有害化学物質の排出である.
よって治療の基本として,患者教育が最も重要である.
即ち,1)生活環境の改善に関する助言(総身体負荷量の減少を図る),
2)生活習慣の改善に関する助言,
3)栄養・運動に関する助言,
4)心理社会的ストレスに対する助言(心療内科医・精神科医の関与も重要)等,これら4項目が重要である.
患者教育のみで,劇的に症状が改善する例も多数認められる.
しかしながら,患者教育のみでは十分な回復を見込めないケースに対しては,有害化学物質を低減化したクリーンルーム(ECU;Environmentally Control Unit)における点滴治療や高用量酸素療法などの積極的治療を必要とする.点滴治療では,標準処方として還元型グルタチオン,アスコルビン酸,ビタミンB群(B1,B2,B6,B12),亜鉛,セレン,マグネシウム等が用いられる場合が多く,自覚症状の改善に有効である.
また本症では,微小循環系の浮腫・血管炎等による組織低酸素状態(毛細血管における酸素拡散障害に起因する)を認めることが多く(静脈血酸素分圧が高値を示す>40mmHg),高用量酸素吸入療法も有効な治療法の一つで,施行後,組織低酸素状態の改善(静脈血酸素分圧の正常化)・自覚症状の改善を認める場合が多い.
本シンポジウムでは,「化学物質過敏症」の治療に関して,北里研究所病院・臨床環境医学センターでの現状を中心に,最新の研究成果も加えて紹介する.
さらに,米国において最も化学物質過敏症の臨床実績のあるEnvironmental Health Center-Dallas(EHC-Dallas)における治療の現状を中心として,メラトニン療法(ミトコンドリアレベルにおける抗酸化療法),抗TGF-beta療法,中和療法など,諸外国における最新の化学物質過敏症の治療成績についても解説を試み,今後の治療の方向性と問題点について,シンポジウム参加者と共にディスカッションしたい.
第52回日本アレルギー学会総会 2002年11月開催