化学物質の生態リスクを耐性の進化から探る2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・ミジンコの耐性変異
淡水生態系の重要な一次消費者(植食者)であり,かつ化学物質への感受性が高いDaphnia 属のミジンコ(カブトミジンコD.galeata )をモデル生物,フェンバレレート(殺虫剤)を対象化学物質として,霞ヶ浦における集団遺伝モニタリングを試みました。

そのためにはまず,化学物質による汚染がほとんど無いと見なされる集団(レファレンス集団)を見つけなくてはなりません。

幸い,霞ヶ浦(北浦)湖畔に,自然公園として管理され周囲に汚染源が見当たらない大膳池というため池があり,そこでカブトミジンコを採集できました。

これで,霞ヶ浦の高浜入り(恋瀬川河口)および湖心でサンプリングした集団をレファレンス集団(大膳池)と比較ができます(図1)。

10km足らずしか離れていない集団間で遺伝的な差が測定できるか半信半疑でしたが,マイクロサテライトDNAという遺伝マーカーで集団間の遺伝的な違いを検定すると,祖先集団が2つ(クラスター数)という仮定が,観測されたDNAデータを最もよく説明するという結果が得られました(図2)。

つまり,同じ湖に生息する同種のミジンコでも遺伝的には分化していたのです。

さらに,急性毒性試験(遊泳阻害試験)をおこなったところ,毒性値(半数致死濃度LC50)で数倍から十倍近くも,レファレンス集団に比べて霞ヶ浦集団の方が高い(つまり耐性が高い)ことがわかりました(図3;表1)。

これをクローン(同メス由来の集団:ミジンコは単為生殖する)ごとに飼育して,クローンごとに耐性を測定すると,同じ集団でもクローン間にバラツキがあり,進化の条件である遺伝的な変異が十分に保有されていたことも確かめることができました。

図1 カブトミジンコ(Daphnia galeata)の採集地点
茨城県霞ヶ浦(西浦)の湖心および恋瀬川河口(高浜入り)。濃紺は,表層水のpHが高いことを示す。

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図2 中立遺伝マーカーによるカブトミジンコ集団のクラスタリング
マイクロサテライトDNA変異を使って,ミジンコの各個体(横軸に1本ずつの線として示した)の遺伝子が,2つの祖先集団(緑および赤)に分類される確率を推定した。湖心と恋瀬川は,同じ霞ヶ浦個体群でありながら,遺伝的に分化していた。

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・図3 各クローン(同メス集団)のフェンバレレート暴露に対する短期死亡率
(48時間後)(拡大表示)
棒は標準誤差を表す。死亡率は,ばらつきをなめらかな一山型に近づける目的でアークサイン変換してある。

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・表1 カブトミジンコ(Daphnia galeata)のフェンバレレート半数致死濃度(LC50)
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