・6.治療および対応
本症に特異的な治療法はない。
原因となる化学物質からの回避が治療の基本である。
自宅や職場など症状が惹起される環境での化学物質対策からはじめる。
1) 室内の化学物質濃度の低減化
・換気
SHSの場合は特に重要である。
VOCは空気より重いため床面に淀み易い。
換気口は床面に近いところにも必要であるが、わが国の住宅には適切な換気口が設置されていない場合が多い。
扇風機なども併用して、効果的な換気に心がける。
・化学物質濃度の高い場所に注意する
押し入れ、クローゼット、食器棚、タンス、防腐剤を使用したキッチンなどはVOC濃度が高くなり易い。
十分な換気を行うのは当然であるが、場合によっては、VOC濃度の測定を依頼し、VOCの低い部屋を把握しておくことも必要である。
特に、どの部屋で就寝するかは重要である。測定は業者に依頼できるが、有料である。
自治体によっては保健所に測定を依頼できる。
2)室内に化学物質を持ち込まない
家具、防火加工したカーテンやじゅうたん、床ワックス、石油ストーブ、殺虫剤、合成洗剤、衣料の漂白剤や柔軟剤の使用、タバコの煙、化粧品、香水などが問題となる。
また、トイレでの消臭剤、芳香剤、洗剤の使用は化学物質濃度が高くなり、注意が必要。
同じ理由で、浴室でのヘヤーカラーの使用も避ける。
洗剤としては石鹸を使用する。
また、購入した衣類の防虫剤、ドライクリーニングの洗剤中の溶剤、シャツなどの形状安定加工に使用したホルマリンなどが衣類に残っている場合がある。よく干して、室内に持ち込まないようにする。
3)新築・改築における注意点
13種のVOCに関しては、厚労省の指針値が出されているが、指針値以下で症状を発現する場合もあり、また、13物質以外の化学物質に反応する可能性も考えなければならない。
建築業者とよく相談し、限りなく化学物質を減少させる努力をする。
基礎工事や建材の防腐・防虫・防カビ処理および建材の接着剤や塗料が問題となる。
特に、シロアリ駆除剤の使用は禁忌である。コンクリートを用いて床下の防湿工事を行う。畳は防虫加工をしないか、フローリングとして接着剤の使用を極力避ける。
最近は、住居のリフォーム後、発症する患者が多い。
壁紙を張り替えて、数年前に使用した接着剤が再度揮発したことが原因と考えられる症例、隣の住宅のリフォームにより発症した症例など、責任の所在について対応が微妙なケースもある。
また、リフォーム業者には小規模業者が多い点も問題解決を難しくしている。
4) 職場への対応
職場の新築や改築を契機に発症している場合は、労災が適応されるべきであ
るが、認められるケースは希である。
職場環境の改善や配置替えについて職場の上司や幹部に掛け合うことになるが、疾患への理解が乏しく、困難を感ずることも少なくない。
転職や退職をせざるを得ない場合もある。
5)その他、配慮すべき点
診療における対応の基本は、患者の訴えをよく聞き、共感と理解を示すことであり、全ての臨床医の持つべき基本的な資質といえる。
しかし、原因化学物質や症状が発現する条件が必ずしも特定されないための不安から、過呼吸を呈したり、パニック障害に陷る患者もある。
このような症状が前面に出るため、全てが心因性のものと誤解されやすいが、患者の発症からの経過を冷静に振り返れば、SHSであることを疑う余地はない。
このような場合は、症状との因果関係が、理論的に明かな原因に注目して、対策を考える。
このような努力をすることによって、少しずつ病状が好転して行く場合が多い。
患者へのアンケート調査によれば、社会や家族の無理解が一番の問題であり、特に家族の無理解が最も切実な問題となっている。
以上のような状況をよく理解し、適切なアドバイスをするように心がけたい。