・3.空気感染を起こす感染症
①飛沫感染と空気感染
飛沫感染は咳嗽、くしゃみ、会話などによって生じた直径5μmより大きい飛沫粒子を吸入することで引き起こされる。
水分を含んだ直径5μm以上の粒子は一定の重量があり、飛散距離はせいぜい1~2 mであり、建物の居住者に広く感染することはない。
飛沫感染を起こす代表的な病原微生物はインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、溶連菌、マイコプラズマなどである。
空気感染は病原微生物を含む直径5μm以下の飛沫核(飛沫粒子の水分が蒸発した微小粒子)または粉塵が空気中に浮遊し、それを吸入することによって伝播する。
飛沫核の落下速度はきわめて遅く、建物の構造や空調システム次第では建物内の広範囲な室内空気中に飛散することが可能である。
空気感染する主要な病原微生物は結核菌、水痘ウイルス、麻疹ウイルスであり、一部のインフルエンザウイルスもこれに含まれる。なお、レジオネラ属菌は含まれない。
②肺結核症
結核菌による肺感染症が肺結核症である。わが国でも肺結核症の集団感染は毎年報告されており、自然感染を受けていない30歳以下の青年層を中心に増加傾向にある。
最近の北海道の事例では、排菌陽性の高校生の家族と学校関係者から26名(学校関係者が19名)の感染者が見出された。
このように同じ建物の居住者に集団発生することがあるため、シックハウス症候群との鑑別上、肺結核症は常に想起されるべき疾患のひとつである。
また、肺結核症の病初期は午後から夕方にかけての微熱、食欲不振、全身倦怠感などの非特異的症状のみであり、次いで、持続性の咳嗽、喀痰が出現する。
これらの症状は感冒や気管支炎とは違って長く続き、放置すると血痰、喀血、息切れ、胸痛、体重減少などが加わるが、それ以前の症状はシックハウス症候群と多くの共通点を有する。
肺結核症の診断では胸部X線検査、ツベルクリン反応、喀痰結核菌検査が重要である。
③真菌感染
真菌の分生子や菌体のフラグメントは室内、室外を問わず、空気中に広範囲に分布し、日常的にヒトの気道内に取り込まれている。
しかし、健常人が空中浮遊真菌により深在性真菌感染症を発症することはきわめてまれであり、免疫機能の低下とともに発症のリスクが増加する。
ビル関連病の原因としての真菌感染症の報告は散見されるのみであり、Aspergillus fumigatusが病院の空調設備内で増殖し、腎移植患者に感染を引き起こした事例などがある。