・●食育の可能性 創造性、愛情をはぐくむ
食育とは、栄養素を教えたり、調理技術を高めるだけではない。
食を通してはぐくまれる可能性についての体験談を紹介する。
「娘たちは就学前から包丁を持ち、料理が好きでした。おかげで私が交通事故で一カ月ほど入院した時も、料理は困らなかったようです。自分が日々の暮らしに困る体になるなんて考えてもみませんでしたが、現在、娘三人の世話によって暮らしていると言っても過言ではありません」(長崎県諫早市・主婦・40歳)
「二十一歳の息子はダウン症です。時間の理解も数字の理解もアドバイスが必要です。その息子が、あるとき料理に興味を示し、丁寧に教えると簡単な料理ができるようになり、積極的にやりたがるようになりました。今では、忙しくて遅く帰ったりすると『お疲れさま。ご飯できてるよ』ということもあります。献立の組立、食材の調達、味の調整と、あらゆる作業が創造的な気がします。普通の人にとっても重要な創造力を培う『料理』という貴重な機会を、外食やコンビニ、レトルト食品など現代の食環境が奪っているように思えてなりません」(福岡県芦屋町・男性)
「娘は高校生のとき、私が弁当を作れない日は、朝五時に起きて夫と兄と自分の弁当を作ってくれました。高校の卒業式の日、クラスで卒業生がひと言述べるとき、壇上から、『お母さん、三年間朝早く起きてお弁当を作ってくれて、私を送り出してくれてありがとう』って私に頭を下げたんです。驚きました。家では恥ずかしくて言えなかったのでしょう。ほかに、保護者に向かって呼び掛けたクラスメートはいませんでした。半分寝ぼけて自ら弁当を詰めた日々、苦労が分かってくれたのでしょう」(北九州市八幡西区・女性)
●「ペンは剣より強い」心にとどめて
「食卓の向こう側」(2)に掲載された城浜団地の者ですが、新聞に載せるにはあまりに取材不足ではないでしょうか。
確かに当たらずとも遠からずの記事でしたが、あれでは団地内で頑張っている人たちが気の毒です。
今の団地は昔と違って格差社会の縮図的要素があります。
高齢者も増し、母子、父子家庭も多くなりました。
子を育てるために夜働き、わずかな睡眠で子どもを一生懸命はぐくんでいる家庭もある事を知ってください。
一度張られたマイナスイメージは簡単には消えません。
ペンは剣よりも強い事を記者の方には常に心にとどめてほしいと願います。
●書かれる立場配慮しながら 取材班
団地を悪く書こうという意図はありませんでした。
「食の大切さは分かるが日々の生活で精いっぱい」「関心がない」という現代の家庭の食卓を、子どもたちのためにどう変えればいいのか考えようとしたつもりでした。
団地には「団地の子はうちの子」という濃密な地域のつながりがあります。
そんな人間関係が消えつつある現代だからこそ、「地域で支え合う食卓」の可能性が見出せるのではと原稿にしたのです。
ただ、ご指摘のように表現が、書かれる立場の方々のお気持ちに十分思い至らなかった点は反省しなければなりません。
今回の経験を今後の取材活動に反映させます。
(2006/04/20 西日本新聞朝刊)