諸外国の先行研究では高圧送電線が近傍にあることが高い「寝室の磁界レベル」をもたらす主たる要因の1 つと考えられたことから、住居から最寄の送電線までの距離別に小児白血病のリスクを調べた。
その結果、小児白血病のリスクに関する調整オッズ比は、住居から送電線までの距離が100m 超を参照カテゴリーとすると、50-100m および50m 未満のカテゴリーで、それぞれ1.56 (0.87-2.91)(症例22 と対照30)と 3.23 (1.39-7.54)(症例13 と対照10)であった。
同様に、ALL のみでは、それぞれ1.36 (0.70-2.65)(症例17 と対照27)と 3.68 (1.47-9.21)(症例12 と対照8)であったことから、高圧送電線近傍でのリスク上昇が示唆される。なお、「寝室の磁界レベル」が0.4 μT 以上であった白血病の症例(すべてALL)6 例のうち住居から最も近い送電線までの距離が100m 以内であったのは4 例、対照では5 例中2 例であった。
こうした傾向については、これまでの送電線からの距離や”Wire Code”(送電線規格と距離を考慮して磁界レベルを示す指標)の白血病リスクについて調べてきた先行研究の結果に相違があり、最近では、直接磁界レベルを測定しそのリスクを調べるようになっていることとも関連するので、さらに解析が必要と考えられる。
本調査においても、これまでの多くの先行研究に対して指摘されてきたと同様にバイアスの影響を考慮しなければならない。
まず、症例の調査への参加率が約50%であったことから症例の選択バイアスが懸念された。
この点を検討するために、5つの小児がん治療研究グループの中で最も多い症例が登録された東京小児がん研究グループにおいて、登録された白血病症例のうち非参加の理由について小児科担当医に対する聞き取り調査を実施した。
その結果、依頼をしたが家族が拒
否をした割合は非参加者のうちの24%(全体の12%)であり、残りは治療が緊急を要していたため依頼できなかったか、担当医が家族に依頼するタイミングを得られなかったものであった。
つまり、担当医が依頼した家族に限れば約80 %((62-12)/62)の参加率があったことになる。
したがって、選択バイアスが入る余地はあっても小さいと推察された。
その他、症例と対照の選択バイアスとして、住居から最寄の送電線までの距離が考えられた。
すなわち、高圧送電線が近傍にあることによって本調査への関心が異なり、そのために近傍ではその他の地域と参加率が異なる可能性である。
その点をまず対照群について検討した。
つまり、調査への協力依頼をした全対照候補者3833名のうち承諾の有無と送電線からの距離との関係を検討した。
この場合の距離は実測値ではなく、電力会社から提供された高圧送電線マップと数値地図(国土地理院)を照合して得られた送電線位置情報と、調査参加依頼をした対象者の住所情報を緯度経度変換した位置情報をもとにGIS (geographic information system)を用いて推計したものである。
その結果、全対照候補のうち、承諾者では高圧送電線から100m 以内に居住していた者は12.4%に対し、未反応者では11.5%であり、有意な差はみられなかった。
つまり、対照者については少なくとも高圧送電線が近傍にあることが、その他の地域と比較して参加率が異なっている可能性は小さいことが示唆された。
他方、同様な検討を症例についても行いたかったが、参加しなかった人を追跡してインフォームドコンセントを得ること自体倫理指針および個人情報の保護の観点から問題があると考えられたので。中止した。
そこで、症例の選択バイアスについてさらに検討するために、参考までに、白血病症例の非参加者の磁界レベルは全て0.1μT 以下であると仮定し、また、上述の検討から示唆されたように対照者のうちの非参加者の磁界レベルの分布が参加者の磁界レベルのそれと同じであると言う前提ですべての対照候補者を対象とした場合について、マッチングしないロジスティック回帰分析を行った。
結果、調整オッズ比は1.4 (トレンドは有意:p=0.04)であり、極端な仮定のもとでも正のリスクが残ることが示唆された。