・パネルディスカッション
化学物質と健康被害『シックハウス』
司会 本日は、シックハウス問題に第一線で取り組まれている、専門家の方々をお迎えしております。
化学物質と健康被害『シックハウス』をテーマに、その予防と対策についてご論義いただきます。
それでは、コーディネートを東京大学大学院の柳尺教授にお願い申し上げます。
柳沢 それではこれからパネルディスカッションを始めたいと思います。
その前にまず、化学物質過敏症になったらいったいどういう生活があるんだろうか、どういう生活状態になるのだろうかということをご説明します。
われわれは、今の時期に多い花粉症については、どういう状態になるのかよく知っていますが、化学物質過敏症になってしまったあとの生活については、余り知られておりません。
先週、NHKのテレビで化学物質過敏症の特集をやっておりました。
化学物質過敏症になると、どういう生活をさせられるのか取り上げられていましたので、そこから一部編集いたしましたものを御覧いただきたいと思います。
「化学物質過敏症の可能性があるからまず家から避難しなさい」
(冒頭のビデオより)
自宅をリフォームした直後から体調を崩し、首のまわりがコチコチになるなどの症状に苦しめられ、家にあってもリラックスすることができなくなってしまい、自分の家に住むことができなくなって、東京にあるビジネスホテルの一室に泊まっているご夫帰がいる。
耳鼻科で診断を受けた奥さんは、医師から「これは化学物質過敏症の可能性がある。まず家から避難することです」と言われた。
「自分たちの家があるのに、私たちはどこへ行ったらいいんですか?」と奥さんは思わず絶句してしまった。
23年間暮らしてきたのは一戸建て4DKの家。
リフォームしたばかりの、その立派な家に足を踏み入れることができなくなってしまった。
内装をしたのは和室3室と風呂場である。
このリフォームが化学物質過敏症の引き金になった。
和室の畳は、防虫剤が入ったものと交換。
壁はクロスをはがし和風の風合いがでる合成塗料に塗り替え。浴室の壁は、カビが生えにくく防水性の高い塗料に塗り替え。
夫婦はその直後から体調が悪くなり、数日のうちに症状が悪化してしまった。会社を退職後、絵画教室を開いて絵を教えてきたご主人は、使い慣れた絵の具の匂いにさえ不決に感じるようになってしまった。
そして避難先を求めて都内のホテル回りを始めたのである。
しかしどのホテルでも部屋に入ると気分が悪くなり、部屋へ入ることができなかった。
ようやく10軒目で落ち着いたのが、築20年の古いホテルだった。
そのホテルは、20年間内装に手を入れていなかったのだ。
壁紙も古いまま、換気のためには窓を開け放していた。
化学物質過敏症の80パーセントの人が、家の中の空気中の化学物質が原因で発症している。
合板や壁紙から出るホルムアルデヒドや、衣類の防虫剤などから出るパラジクロロベンゼン。
塗料や接着剤から出るトルエンやキシレンなど、身の回りの化学製品から発生する物質が体内に入り蓄積されると、まず自律神経に障害が出はじめる。その結果、わずかの化学物質に接しただけで、頭痛・眩暈・関節痛などさまざまな症状が出てくる。
リフォームから1ヵ月半たって、この住宅の化学物質を環境調査の会社に依頼し、和室と浴室でホルムアルデヒドやトルエンなど空気中の化学物質の濃度を測定してみた。
測定の結果は、ホルムアルデヒドは浴室で0.023ppm、和室で0.029ppm。
いずれも国のガイドラインより低い数値だった。
トルエンやキシレンについても、同じくガイドラインより下回っていた。
健康な人なら問題のない数値である。
しかしこういう低いレベルでも異常を来たす人は多い。
このご夫帰は、だから今でも家に入れないでいるのだ。
旭川市郊外に日本で初めての化学物質過敏症の患者のための専用住宅がつくられた。
その住宅があるところは、夏は牧草地として使われている自然環境の中。
もちろんその牧草地は、過去40年間農薬を散布していないし、住宅は自然素材100パーセント活用の「木の城」である。
その住宅に先行して生活しているのが、かつて化学物質過敏症に苦しんだ体験を持つ山田綾子さんである。
ほかの患者が入居する前に、この住宅が問題があるかないか、自ら確認する作業を手伝っているのだ。
山田さんは、機械も感知しないような微妙な匂いを、化学物質過敏症体験から感じとるのだという。
「いちばん安全なのは、患者さんが実際に生活してみて何もないということです」と担当の医師は語り、山田さんも「苦しくなくいられることが、私にとっていちばん嬉しいことです」と語る。
その様子が、会場のお客様にビデオで紹介された。