・ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議より
http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin01.html
・ニュースレター 第51号 (2008年4月発行)
中国産加工食品の有機リン系農薬による汚染・中毒事件から学ぶべきこと
国民会議常任幹事 田坂 興亜
今回の中国産餃子による農薬中毒事件で原因物質となった有機リン系殺虫剤「メタミドホス」と私が初めて遭遇したのは、1991年7月に香港で開催された国際消費者機構(IOCU)の世界大会に参加したときのことであった。私は、日本消費者連盟の一員として、また、同時にPAN(農薬監視行動国際ネットワーク)のメンバーとして参加したのであるが、一緒に参加しておられた神山美智子さんから、「中国から香港に輸入された野菜が農薬で汚染していたために、中毒患者が出る事件が起こったようだ」という話を聞いた。
South China Morning Post という英字新聞のこの事件を報じている1991年3月10日の記事を取り寄せてみると、次のような報告が書かれていた。
1991年1月、2月に、中国のシェンツェン(香港から鉄道で、トンネルを抜けてすぐのところ)から香港に輸入された野菜パクチョイを食べて、64名が中毒となり、25名が入院した。
その原因物質はメタミドホスと判明した。
しかも、1987年には121名、1988年には400名、と中国からの輸入野菜の農薬汚染によると思われる中毒事件が香港で繰り返し起こっている、という記事であった。
調べてみると、中国政府は1982年6月に、野菜、果樹、茶、ハーブ、たばこ、コーヒー、ペッパーに対してメタミドホスの使用を禁じていることが、1991年の国連の資料1)、PANの出版物2)に明記してあった。しかし、中国の研究者によって書かれたPANの1997年の出版物3)には、この殺虫剤が、コメと綿花に対しては使用が許可され、使われているという。
そして、アジア開発銀行が1987年に発行した資料4)によると、その時点で、メタミドホスは中国で使用されている5つの「主要農薬」の一つに挙げられている。
さらに、タイ政府が発行したタイ語の資料によれば、タイが1995年に輸入した農薬、とくに殺虫剤の中で、メタミドホスは輸入量トップの農薬であり、輸入先は、中国、USA、台湾と記載されている。
このことから、中国では1982年以降もメタミドホスが使われ続けていただけでなく、これを生産し、輸出を続けていたことがわかる。
コメと綿花に対して使用が許可されていれば、当然この農薬は市場に出回っていたであろうし、野菜に対してこの農薬の使用が禁止されているという中央政府の指令は、広い中国で徹底されることなく、農民はその使用を続けていたであろうと思われる。香港で繰り返し起きた中毒事件は、このような状況の中で起こったのではないかと思われる。
さて、今回の中国製餃子に含まれていたメタミドホスによる中毒事件は、当初、この農薬だけが高濃度に検出されたこと、また、袋に穴が開いているものも見つかったことから、故意に混入された疑いが高いとされ、中国での生産過程か、日本に入荷してからなのかが注目されてきた。
メタミドホスだけでなく、ジクロルボス(別名DDVP)も検出されると、これは日本でも広く使われている農薬であることから、中国側は日本での混入を強く主張するようになった。
ところが2月中旬を過ぎると、さらに、ホレート、パラチオン、パラチオンメチルといったいずれも有機リン系の殺虫剤が中国の色々な場所で生産された加工食品や、魚からまで検出された。
いずれも急性毒性の極めて強い殺虫剤で、WHOは、1A(極めて有害)の部類に分類している農薬である。
ちなみに、メタミドホスとジクロルボスは、1B(非常に有害)の部類である。急性毒性を示す指標であるLD50の数値5)と共に、一覧表にすると、右表のとおりである。
2月下旬になって検出されたこれら農薬の濃度は、0.22~0.64ppm(ニラ肉まん中のメタミドホス)、1.2ppm(アスパラ入りロールソースかつ中のホレート)、1.6ppm/1.1ppm(手作り餃子中のパラチオン/パラチオンメチル)、というように、一般的な「残留農薬」のレベルである。
したがって、魚の場合以外は、ニラやアスパラガスなどの野菜の栽培において、収穫直前まで散布されていた農薬が残留してしまった可能性がきわめて高い。
メタミドホスとジクロルボスは、2002年1月にも、中国から日本に輸入されたブロッコリーとサイシンから、また、生鮮・冷凍のニラの両方からクロルピリホスという有機リン系の農薬が残留基準を超えて検出されており、これら輸入野菜30トンが廃棄処分されている。