・東京都健康安全研究センター環境保健部生体影響研究科より
・B-3-d-5.メトキシクロル(Methoxychlor)
1)ヒトの健康影響に関連する情報
アイオワとミネソタ州に住む白血病の男性578名と,対照群1,245名にインタビューを行い,農業従事者と非農業従事者における白血病の発生について比較を行ったところ,methoxychlor は白血病に対するオッズ比を有意に増加させた1).
Methoxychlorとcaptan を含む殺虫剤のダストを顔面に浴びた49才の男性は数週間疲労と挫傷の持続を訴え,2ヶ月後再生不良性貧血と診断され,6ヶ月後に死亡した2).
Methoxychlor は,in vivo あるいは肝ミクロソームによって活性エストロゲン作用を持つ 2,2-bis(p-hydroxyphenyl)-1,1,1-trichloroethane(HPTE) を生成する.HPTE は女性の繁殖力,妊娠初期,子宮の発育に対して反作用を持ち,男性に関しては出生前の暴露が社会的行動を変えるという報告がある.2)内分泌系・発生過程に対する影響
NIH Swiss マウス雄新生児 (生後0-9日) に methoxychlor 0.1,1.0mg を腹腔内投与.血清中テストステロン濃度低下.1.0mg 群で貯精嚢,球尿道腺,腹側前立腺の DNA 含量の減少を認めた4).
Long-Evans ラットの離乳期から思春期,妊娠,授乳期を通じて methoxychlor 0,25,50,100,200mg/kg/日を経口投与.膣開口,初期の発情の早期化,ライディッヒ細胞テストステロン産生減少,下垂体レベルでのプロラクチン,TSH,FSH の変化が見られた5).
Holtzman ラットの偽妊娠1-8日に methoxychlor 0,100,200,300,400,500mg/kg/日を経口投与.脱落膜細胞反応の用量相関的抑制を示した.エストロンでも同様の作用あり6).
SD ラット雌に methoxychlor 1000,2500,5000ppm,添加飼料を摂食.5000ppm 摂食で膣開口の早期化,発情頻度の増加7).
SD ラットの子宮を用いた試験で methoxychlor はトリチウムラベルエストラジオールのエストロゲンレセプターへの結合減少8).
Swiss マウスの生後1-14日に methoxychlor (MXC) 0.05,0.1,0.5,1.0mg を腹腔内投与.3,6,12日齢で膣塗抹観察.MXC 投与により膣角化期延長,0.5,1.0mg 群で卵巣の萎縮,相対卵巣重量低下,黄体欠乏がみられた.これらの現象はエストラジオール10.0μg 投与時と同じ.しかし,MXC 0.05,0.1mg 投与では対称的に卵巣が大きく黄体で満たされていた.
この MXC の低濃度での増大,高濃度での阻害効果は視床下部-下垂体機能の変化によることを示唆9).
Wistar ラットの妊娠6-15日に methoxychlor 50,100,200,400mg/kgを経口投与.用量に関連して死亡胎児の増加,生児体重の減少,化骨遅延,波状肋骨の増加が認められた10).
CF-1マウスの妊娠11-17日にmethoxychlor 20μg/kg, 2000μg/kg/dayを経口投与した.生後9.5月齢の観察において,雄マウスの前立腺重量の有意な増加と肝重量の有意な低下が20μg/kg,2000μg/kg投与で認められた.また,精嚢重量の有意な増加が2000μg/kg投与で認められた.妊娠マウスに対するmethoxychlor 20μg/kg及び2000μg/kg投与での雄仔マウス内分泌機能への影響を示唆.24)
3)実験動物での臓器障害性に関する情報
卵巣萎縮:マウス 腹腔 67.6mg/kg/日 14日間12)
精巣及び子宮重量減少:ラット 経口 50mg/kg/日 36日間13)
精子数減少:ラット 経口 150mg/kg/日 36日間13)