・○ 100kHzまでの電磁界(家電製品、送電線など)の健康影響
WHOは2007年(平成19年)に、100kHzまでの超低周波及び中間周波電磁界(家電製品、送電線など)の健康影響に関して、「環境保健クライテリアNo.238」8を発刊するとともに、その要約版として「ファクトシートNo.322」9を取りまとめました。評価の主な内容は以下の通りです。
急性影響
100kHzまでの周波数範囲の電界及び磁界へのばく露については、健康影響を生じる急性の生物学的影響が認められている。
ゆえに、ばく露限度が必要である。この問題に対処する国際的なガイドラインが存在する。これらのガイドラインを遵守することにより、急性影響に対する適切な防護が得られる。
慢性影響
日常的な、慢性的な低強度(0.3~0.4μT以上)の超低周波磁界ばく露が健康リスクを生じるということを示唆する科学的証拠は、小児白血病のリスク上昇についての一貫したパターンを示す疫学研究に基づいている。
ハザードの評価には不確実性(選択バイアス及びばく露の誤分類の可能性、実験研究及びメカニズムに関する証拠はこの関連を支持していない)があり、因果関係があると考えるほどには証拠は強くないが、関心を残すには十分に強い。
その他のいくつかの疾患が、超低周波磁界ばく露との関連の可能性について調べられている。これらには、小児及び成人のがん、うつ病、自殺、生殖機能障害、発育異常、免疫学的変異及び神経学的疾患が含まれる。
超低周波磁界とこれらの疾患とのつながりを支持する科学的証拠は、小児白血病についてよりもさらに弱く、いくつかの場合(例えば、心臓血管系疾患や乳がん)においては、磁界が疾患を誘発しないと確信するのに十分な証拠がある。
[補足説明]
送電線の周囲には50Hzまたは60Hzの超低周波磁界が生じています。
この超低周波磁界へのばく露に関連して、「送電線の近くに住む子供は小児白血病に罹りやすいのではないか」との懸念が示されています。
このことは、米国で1979年(昭和54年)に「磁界が高いと想定される送電線の近くに住む子供は小児がんのリスクが高い」という疫学研究の結果に端を発しています。
その後の疫学研究でも、送電線の周囲での国際的なガイドライン(pよりも遥かに低いレベルの超低周波磁界へのばく露と、小児白血病のリスク増加との関連を示す結果が報告されるようになりました。
こうした状況から、WHOは1996年(平成8年)、電磁界の健康リスク評価などを目的とした「国際電磁界プロジェクト」を発足させました。同プロジェクトの一環として、WHOの下部組織である国際がん研究機関(IARC)が2002年(平成14年)、静電磁界及び超低周波電磁界に発がん性があるかどうかの評価結果を公表しました。
超低周波磁界については、複数の疫学研究を統合して分析(プール分析)した結果、生活環境での0.3~0.4μTを超えるレベルでのばく露と小児白血病のリスク増加との間に一貫した関連が見られることから、人に関する限定的な証拠ありとする一方、実験動物に関する証拠は不十分であることから、「発がん性があるかもしれない」(グループ2B)と分類しています。
超低周波電界と静電界、静磁界については、人に関する証拠は不十分で、実験動物に関するデータは得られなかったことから、「発がん性を分類できない」としています。
超低周波磁界を「発がん性があるかもしれない」としたIARCの評価に関連して、WHOは「全体として、小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではありません」との見解を示しています。
また、その他の疾病についての証拠は「小児白血病についての証拠よりもさらに弱い」と結論付けています。