・3)-2 全脳腫瘍についての研究
○ Minder CEら(2)は、スイスの鉄道従業員18,070名を対象にして270,155人年におよぶ後ろ向きコホート研究を行い、全脳腫瘍のリスクと磁界の曝露との関連性を調べた。
曝露評価については、磁界の累積曝露(μT-year)と、10μT以上の磁界に曝露された期間(year)の、2種類を用いて全脳腫瘍の相対危険度を算出した。その結果、曝露が低い職種(駅員)の対象者と比較した、曝露が高い職種(運転士)の対象者における全脳腫瘍の相対危険度は5.1(95%信頼区間1.2~21.2)であり、リスクの増加が認められた。
しかし、磁界曝露と全脳腫瘍のリスクとの量反応関係は認められなかった。この研究では、全白血病の際と同様に、磁界曝露の実測方法よりその正確性は評価できる。
しかし曝露期間については対象者の記憶によるため、バイアスが生じて過小評価される可能性が考えられる。また職場以外における曝露の影響等についての考察が十分にされていない。
○ Villeneuve PJら(6)は、脳腫瘍と診断された543名を症例とし、年齢(1歳以内)および性を一致させた同数を対照として、症例対照研究を行った。
曝露評価は、質問紙を使用して従事した職種を調べ、専門家のレビューにより平均磁界曝露が0.3μT未満、0.3μT~0.6μT未満、0.6μT以上の3段階に分類された。
結果では、平均磁界曝露が0.6μT以上の職種に従事した男性は、0.3μT以下の職種と比較して、全脳腫瘍のオッズ比は1.33(95%信頼区間0.75~2.36)と有意差はみられなかった。脳腫瘍のサブタイプ別の分類では、多形神経膠芽腫のオッズ比は5.36(95%信頼区間1.16~24.78)と有意な増加を認めたが、星状膠細胞腫および他の脳腫瘍との関連性は認められなかった。
この研究では、職場以外の環境による曝露について評価に含まれていないことから、バイアスが生じる原因となる。
また脳腫瘍の進行速度が特に速い例や重症例では質問紙に回答することが困難な事例も予想されるが、その様な症例が除外されることでもバイアスが生じる可能性がある。
○ Kheifets LI(16)は、住居および職業性の電磁界の曝露と、小児および成人の脳腫瘍との関連性を調べた主要な研究論文を対象としてレビューした。
これまでの疫学研究では、曝露の評価について、ワイヤーコード、曝露源からの距離、曝露レベルの実測、曝露レベルの計算、電気製品の使用の有無等の様々な方法が用いられてきたが、いずれの曝露の評価方法においても、脳腫瘍のリスクが増加するとした結論は確立されていない。
また最近の研究においては、関連性を示唆した論文もほとんどない。