東京衛研年報より10 | 化学物質過敏症 runのブログ

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5.4.長期的な影響
化学物質過敏症やシックハウス症候群等のように比較的急性に表れる症状に対して,長期間室内空気汚染物質を吸入し続けることによって誘発する可能性がある呼吸器病,心臓病,ガン48)さらには内分泌かく乱作用31)にも留意する
必要がある.

汚染物質暴露濃度×期間とこれら疾病の発生率あるいは悪影響との関係はまだ明らかではないが,リスクを回避するために室内空気質(Indoor Air Quality)を良好なレベルに保つことが望ましい.

6.健康被害の防止のために
室内空気中の化学物質による健康被害を未然に防止するには,有害な化学物質を極力少なくした建材・内装材を選択することである.メーカーはユーザー(住まい手)に望まれるこのような製品を安価に供給することが不可欠である.既に,ホルムアルデヒドについては本稿で述べたようにほぼ成功したようにみえる.

しかし,これは単に他の化学物質へ転換しているにすぎない可能性がある.トルエン等の溶剤は依然として高濃度なケースがあることから,工場出荷時の品質保証ばかりでなく,現場での適切な施工方法の徹底等,メーカーの更なる努力が期待される.

一方,住まい手側に出来る最も有効な健康被害の防止対策は換気である.高気密住宅で機械換気装置が備え付けられている場合には,常時運転をすることが必要である.空気清浄機の使用にあたっては,性能を確かめた上で安易に頼り過ぎないことや防虫剤・殺虫剤の適切な使用をすることも大切である.

7.おわりに
シックハウスの問題は1996年の国会審議をきっかけに大きな社会問題となり,国の各省庁や地方自治体,関連業界で本問題に対する対策が本格的に検討されている.その結果,いくつかの化学物質について室内空気中濃度の指針値が策定されたことにより,新築住宅におけるホルムアルデヒド濃度の低下がみられる等の具体的な効果が表れている.

しかし,トルエン等のVOCについては依然として一部住宅で指針値を超えており,指針値策定以前と大きな変化はない.また,今までに指針値が策定された物質は13種類のみで,100種類以上はあるといわれるその他の化学物質についてはまだ手付かずのままである.

WHO欧州事務局は2000年5月に清浄空気に関する人権宣言「The Right to Healthy Indoor Air」60)を公表し,≪全ての人は清浄な室内空気を呼吸する権利を有する≫そして,≪あらゆる関連機関は建物の空気質や居住者の健康と環境上の影響を評価及び査定するために明確な基準を確立すべきである≫と述べている.

2002年5月には社団法人・日本建築学会は「清浄空気・建築憲章」61)を公表し,≪今日のシックハウス問題に建築が大きく係わっていることを認識し,清浄な空気環境を提供する努力を行う≫ことを宣言している.

そして,この宣言を具体化するにあたり,

①清浄空気の重要性に関する説明と情報発信,

②空気汚染の情報開示,

③学会基準の作成と公的基準の作成支援,

④安全な建材,安全な施工方法の開発,

⑤効率的な換気システムの開発,

⑥健康リスクの最小化,

⑦維持管理指導に取り組むとしている.
地方衛生研究所においてもシックハウス問題に対して果たすべき役割は大きく,住民から寄せられる期待も大きなものがある.

関係行政部局,保健所と緊密な連携のもとに,先取り的な調査研究,試験検査等を積極的に行う必要がある.

具体的には化学物質分析方法の開発,実態調査に基づく問題点の提示,健康被害の実態把握,発生源の解明と室内化学物質濃度の低減化に関する研究,微量化学物質による健康リスクの情報収集等が課題であると考える.

runより:非常に長く難しい論文でしたが理解する要点はそれほど多くはありません。シックハウス症候群と闘う人に役立ちますように願います。