あ化学物質過敏症の診断
従来、化学物質過敏症は、近代工業化社会が産み出した環境病という漠然とした概念で捉えられて、一疾病として認められない時期もあったようです。
米国においても、多種化学物質過敏症(MCS)に関わる症状を持つ人々は、30歳代から50歳代の職業を持った女性がほぼ80%を占めており、慢性疲労症候群や月経前緊張症候群などとともに、確固たる科学的データがないという事実から、「臨床的な事実として存在しているとは確信できない。」と考えられてきました。
しかし、米国をはじめとする多国籍軍がイラクを攻撃した湾岸戦争時に、戦地に配備された兵士たちに発生した湾岸戦争症候群によって、その見方が変化しました。「湾岸戦争の兵士の中に、多種化学物質曝露が引き起こす病態を十分に示す兵士が存在すること。その病態が、一般市民の多種化学物質過敏症として知られている病態と関連していること。」が明らかになったからです。
1989年に多種化学物質過敏症(MCS)の臨床定義として提唱された5つの合意基準は、1999年、「症状が多種類の器官にわたること」という6つめの合意基準が追加され、「多種化学物質過敏症(MCS)に関する同意事項:1999」として発表されました。
MCSの診断基準(米国専門医による合意事項)
1) 化学物質への曝露を繰り返した場合、症状が再現性をもって現われること
2) 健康障害が慢性的であること
3) 過去に経験した曝露や、一般的には耐えられる曝露よりも低い濃度の曝露に対して反応を示すこと
4) 原因物質を除去することによって、症状が改善または治癒すること
5) 関連性のない多種類の化学物質に対して反応が生じること
6) 症状が多種類の器官にわたること
我が国においても、化学物質過敏症に対する理解が深まり、1997年6月、厚生省(現厚生労働省)は、化学物質過敏症と室内空気中の化学物質の関係について次のように発表しています。
「化学物質過敏症と室内空気中の化学物質の関係については、現時点における定量的な評価は困難であるが、その存在を否定することはできないので、当面は、化学物質を可能な限り低減化するための措置を検討しつつ、今後の研究の進展を待つことが適当と考えられる。」
1997年8月、厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班が作成・公表した「化学物質過敏症パンフレット」には、化学物質過敏症の診断基準として下記の・から・の項目が示されています。
・. 主症状
1) 持続あるいは反復する頭痛
2) 筋肉痛あるいは筋肉の不快感
3) 持続する倦怠感、疲労感
4) 関節痛
5) アレルギー性皮膚疾患
・. 副症状
1) 咽頭痛
2) 微熱
3) 腹痛、下痢または便秘
4) 羞明、眼のかすみ、ぼやけ、一過性の暗点出現
5) 集中力、思考力の低下、記憶力の低下、物忘れ、健忘
6) 感覚異常、臭覚・味覚異常、臭気による幻覚
7) 精神症状:時に興奮状態、うつ状態、精神的な不安定、不眠
8) 皮膚:アトピー、蕁麻疹、湿疹、皮膚炎症、アフタ、かゆみ
9) 月経過多、生理時疼痛・異常など