H2O The Last Extravaganza Weekend 

Night 1 10/30/2020

 

マット・トレモント引退試合-ノーロープ・バーブドワイヤー&200ライトチューブス・デスマッチ

マット・トレモント対リッキー・シェイン・ペイジ(w/44 OH!)

 

今大会はマット・トレモントの引退興行であると同時に、今年5月に急逝したダニー・ハヴォック(グラント・バークランド)への追悼大会の意味が強い大会となった。この試合で引退となるトレモントの相手は、現在のデスマッチ界のトップであり、現在最悪のヴィランであり、ダニーとも親交の深かったRSP。そして共に GCWとCZW両団体で世界王者となり、RSPがTOD(CZW Tournament of Death XV)制覇した時の決勝戦の相手がトレモント。USのデスマッチ界を制覇し、個々の因縁も決して浅くない間柄。

 

 

当然この特別な試合の意味を解っているので、じっくりとRSPがトレモントを甚振る事で作り上げた序盤。蛍光灯の設置が日本程上手く出来ておらず、蛍光灯の割れが悪かったものの、RSPが自爆する形で蛍光灯を割ってスペースを確保。そこから試合は動き始める。蛍光灯束攻撃を中心に両者大流血。ビッグマッチの重々しさとシンプルさをとにかく大切にし、引き算のプロレスを心掛けていた。44OH!の介入を最低限にし、トレモントの奥さんの大立ち回りにしたのも見事。良い塩梅で中締めを行い、終盤はビッグスポットの連発へ。この試合のハイライトとなった高所足場での攻防は、ダニーのH2O 殿堂入りのモニュメントが飾られている真前での殴り合いは、まるでダニーが見つめているかのような演出。これこそが2人が見せたかった全てであり、涙なしには見られない演出。そしてトレモントの高所落下で終わるかと思いきや、これで終わらなかったのも素晴らしい。ニック・ゲイジを葬った蛍光灯束を使ったチョーク・ブリーカーをも返す。そしてRSPが引導を渡すべく最後に選んだのは、デスバレー・ドライバー。つまりダニー・ハヴォックの必殺技ジェネラル・オーダー24。後悔のない様にやり切った激闘。過激度も備わっていたが、2人のプロレスラーとしてのスキルの高さ、ロングマッチやエンタメ性等過激一辺倒ではないデスマッチの試合構築の高さが存分に味わえる内容。試合後は無言で去るRSPのプロフェッショナルとしての拘りは素晴らしく、トレモントはキャリアを振り返りつつ、家族や同僚達に感謝と労いの言葉をかけ、きっちり明日の興行を宣伝。そして何よりもダニー・ハヴォックに対する愛情とリスペクトを捧げた。31歳にして親分の貫禄を示し、最後まで大立ち回りを見せてくれた。

 

この試合は、ザンディグやイアンがいなくなり、ネクロは衰え、ゲイジは服役。旧世代のデスマッチスターが殆どいなくなり、ドレイク・ヤンガーやサムタック・ジャックら新世代のレスラーもデスマッチから離れていった冬の時代、まさに「失われた時代」である10年代中盤から後半を、若くして未熟な面もありながらも何とかシーンを守り続けたトレモント、そして長年活躍してきたタッグ(Faith in Nothing)を解消し、マスクを脱ぎ素顔となり、デスマッチ・ファイターとして再起を図り、トレモントに続きシーンのバトンを繋いで、現在全盛期を迎えシーンの旗手となったRSP。ファンも選手もいなくなり、衰退したシーンを必死の思いで繋いできた10年代の象徴である2人、いや天からこの試合に参加していたダニーと3人が紡いだ清算の場所である。For the Grant. For the Deathmatch. For the family.. 3人の思いが重なった特別な試合。全デスマッチ・ファンに観てほしい、涙無しには語れない戦い。クオリティも最高だが、それ以上に特別で、愛と友情に溢れたエモーショナルな内容。2020年とデスマッチシーンを代表する一戦です。文句無しに好勝負。

評価:****1/4

 

全体評価:7.5+

 

今年の7月に行われたGCW『Homecoming Part2』で、「One Last Time」の銘打たれた試合を終え、引退するはずだったリオ・ラッシュに対し、ジョーイ・ジャネラが、茶化す様に言い放った「最後って言っても、また出てくるんだろ?」という言葉。結果リオは業界にカムバックする事になるのだが、トレモントもまだ31歳。そして彼の永遠のアイドルは、今大会の合間にもコメントを残していた大仁田厚。それが意味する事は言うまでもない。十分今日は涙のカリスマとしての輝きを放っていた。もし戻ってくるならその時は楽しみにしているし、やり残したAEWでの対コーディ戦も実現しよう。Thank you Matt!