新日本プロレス 

レック Presents G1 CLIMAX 30 10/18/2020
G1 Climax 30 優勝決定戦
飯伏幸太対SANADA

神を超えて神になったはず。しかし神って何だろう?もし神がいるのなら全てを救ってくれるはず。しかし神がいるとしたら神はきまぐれで、意地悪だ。何故なら飯伏幸太にはない力は与えないし、SANADAにもない力は与えなかった。それが全ての試合。このカードは実験的であり冒険である。コロナ禍で観客の制限がなければこのカードではないだろう。それを示すかの様な賛否両論を生み出している。

 

身体能力が物凄く、攻防の質も素晴らしい。新日本に移籍した事で更に完成度が増した選手同士。ある意味写し鏡に近い存在。だからこそ出来ること出来ないことがわかっている。いきなり感情剥き出しの試合は出来ない。やればプランを逸脱し崩れていく。遺恨もないので過激化は出来ず、観客が飯伏に望むキラーモードを出せる相手でもない。新日本でヘビーのトップになった飯伏は、制御されたキラーモードを使い、大舞台を勝ち残ってきた。それが出せない展開である事は、飯伏の魅力を削いでしまい、リープフロッグの流れをミスし、スカルエンドの攻防も切ってしまう程ナーバスな精神状態を打開出来ない。そこは上手くSANADAがフォローして乗り切ったものの、フォローは出来るが逆転ホームランを打つ選手でもないので大きな局面の打開は厳しい。保険として記録や記録に残る様に G1最長時間という勲章を与えたに過ぎない。仮に20分で素晴らしい歴史に残る試合になれば良いが、普通の好勝負レベルなら満足はして貰えないし、記憶には残らない。

難しい挑戦ではあったが、演者2人はこのロングマッチをやり切るために、一つ一つの攻防を丁寧にダイナミックに行う事を徹底した。時間が経つにつれて、緊張の糸が少しずつ切れたかの様な場面は散見されたが、十分良い試合である。


只、評価が上がりきって、頂上に何度も昇り詰めた新日本プロレスという舞台の看板であるG1の優勝決定戦であり、団体のアイコンである棚橋、オカダ、内藤らを抑えて勝ち上がった、他団体からの移籍組2人のメインである点を省みると、これでは納得して貰えない。それを乗り越えてこそでもあるけれども、サポート出来る特別な仕掛けがないなら、丁寧にやるしかなく、そうした結果がこの内容。

難しい環境という足枷付の飯伏対SANADAとして見るなら十分上手くやり切ったと思うが、G1や新日本プロレスのブランドに思い入れが強ければ強い程、他に意中の選手がいて、それが新日本プロレスの象徴であればあるほど見る目は辛くなり、辛辣な意見が出てくる。残念ながら神はこの試合には舞い降りてはくれなかった。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

全体評価:7

新日本プロレス 

レック Presents G1 CLIMAX 30 10/16/2020
Aブロック公式戦
石井智宏対ジェイ・ホワイト(w/外道)

ジェイの完璧なインサイドワークに苦戦を強いられる石井が耐え切り大爆発。想像出来る展開ではあるがその完成度が素晴らしい。その中でも序盤〜終盤までの作り方が眉唾もの。ジェイが首攻め、脚攻めとヒールプレイを3つ並行して進めるという超高難度技をいとも簡単に披露してしまう。ブレードランナーを筆頭に各種首への投げ技への布石、必殺裏4の字への布石と当然理にも適っていて、それでいて良い塩梅のヒールプレイで激しい一辺倒になりがちな試合展開をキャッチーにする。ここまで上手くやれるのかと感嘆の一言。

当然完全に支配されても、終盤には跳ね返し、石井の領域で勝負する形になるのは石井の確固たる強さ。脚攻めを脚攻めでやり返し、Rトゥルースばりのブレーンバスター・スタナーで切り返すなどのサプライズヒットもある。相手に支配されている様で、実は支配されずに最後は確実な強さを見せる石井の一番得意な展開で締めていく。クライマックスにおける外道の介入は、くどい割には効果的にダイナミズムを生み出せていないので、必要性は感じるものの、毎度の如くもう少し上手く出来ないかとは思う。それまでの素晴らしさを考えれば、介入スポットにおける詰めの甘さが悪目立ちしてしまう。
それを差し引いたとしても互いの能力や現在のスタイル、立ち位置を巧妙に組み込み、選択肢を全て間違えず、確実な上手さを全体通して見せた名勝負。
評価:****1/2