Pro Wrestling NOAH 

20th ANNIVERSARY 

NOAH the CHRONICLE vol.3 20/8/10
IPW:UK Jr.ヘビー級王座戦
原田大輔(c)対HAYATA

もう存在しない団体のベルトを争う中で、裏切りによる遺恨とジュニアの華麗さをどう表現するかというテーマに対し、原田は場外での投げで、HAYATAはいつもよりDDT系の技を増やし、やれる範囲で厳しさを出すも、いまいち上がっていかないクオリティ。ミッドカードという位置も、試合後にベルトをゴミ箱に捨ててしまうプロモもある程、価値のない物と思っていたのが、モチベーションが上がらなかった要因か。もう落ち着いてしまったスティンガー対ラーテルズの抗争を物語る様な内容。特にあの終盤のタイミングで、リセットしてヘッドロックは流石にナンセンス。得意技の攻防で一定のレベルには纏めたが、もう次に進む時が来ているという印象しか残らなかった。平均的良試合。
評価:***1/4

武藤敬司対清宮海斗
グラウンドの応酬から、武藤の十八番ドラゴンスクリューを切って腕攻め。動けない武藤相手にどうインパクトを生み出しながら、ロングマッチを作るか。本来なら乱発するドラスクを何度も切る事で、攻防を増す事ができる上、一発のドラスクに価値を持たせる。その最初のドラスクが場外の鉄柵を使っての一発だったので、その後に行われる脚攻めに、非常に繋がるものである。といってもその後は清宮が動いて、やられてカウンターを喰らい、脚攻めでのたうち回る。休み休みにしか動けない武藤を必死にサポート。といっても武藤がこういう状態である事はわかっていて、試合をブッキングしたのは、ビジネスの為であり、清宮の為。絶対にノアファン以外も注目して見るカードなので、組んだことに意義がある。しかし清宮の奮闘とアイデア力により、武藤がロートルとしてではなく、歴戦の猛者として存在していた。武藤も今は過去の栄光とネームバリューで辛うじて現役を続けているが、その清宮の意気込みに感じるものがあったか、27分ものロングマッチで、スープレックス系の受けも取り、出来る範囲でベターを尽くしていたのは印象的。そのおかげもあり、それなりに良い試合にはなっている。プロレス界にいる限りこの様なシチュエーションは避けては通れない中で、この様な試合においての型はないものの、清宮が非凡な才気を見せつけた試合。

まあまあ良い試合。
評価:***1/2

GHCヘビー級&GHCナショナル ダブル選手権試合
潮崎豪(HW ch)対拳王(N ch)

大注目の中、結果は60分フルタイムドローとなったダブルタイトル戦。冒頭10分は打撃を織り交ぜながら、じっくりグラウンドで進める。ロングマッチになる事は予想される中で、定石を踏む形で土台作り。只10分間ヘッドロックのみ等の手段を取らず、チョップ連発対キック連発と最大の武器である打撃を小出しにしつつ、動いていくので退屈さは感じない。ここでも潮崎が確実な脚攻めで選択。来たる消耗戦に向けた土台作りを引き継ぐ。コーナーと鉄柱への足横須賀(足をクロスにしてそのまま叩きつける)という印象的な技を見せたのはポイントとなる。脚攻めを経た後は、得意技を出していく一進一退の攻防へ。ギアの上げ方は抑え目ではあるものの、ハードヒッティングの激しさはあるので、フルタイムドロー感を出さずに、時間を費やし、ボリュームも増す事が出来たので、観る者の集中が削がれない。30分を経過する前に、打撃合戦でノアらしい限界を超えるハードヒットが訪れる予兆をより明確にして、潮崎のノータッチトペで区切りを付け後半30分へ。

 

後半は当然の如く消耗戦の様相へ。ハードヒッティングが目玉になって来る中で、死力を尽くした削り合いであっても、最強の矛であるチョップを持っていながら、ダウン表現や試合構築にも秀でている潮崎ならではの上品なハードヒッティングマッチとなっている。関節技も織り交ぜて、断崖式は一回のみ、垂直落下の危険技、エプロンでの投げや雪崩式は使わずに45分を戦い抜いた事によって、残り15分の必殺技の応酬の価値が保たれる。只、互いのライフを削り取る苛烈な展開が続く割に、ハイライトとなる大きなスポットがないなという所で、場外でダウンしている潮崎へのPFS(ダイビング・ダブルフットスタンプ)。かつてのKENTAや佐野巧真を彷彿とさせる強烈過ぎる一撃。その時点で10分を切り、後は必殺技の打ち合い。色濃く残るダメージを表現したのは上手かったが、クライマックスなので、ギアをフルにした打ち合いを多く配置しても良かったという印象はあるものの、それまでの死闘による疲労を優先したのは、王者潮崎のカラーだろう。もし中嶋や杉浦が拳王相手ならハードヒッティングで押す可能性は高かったけれども、この試合の潮崎は徹底していた。

 

ノアらしいハードヒッティングの応酬による消耗戦という軸は残しつつも、度を超えた危険技に頼らず、ダメージ表現の入れ方やバリエーションで試合のスケールを高める。四天王でもなく、新日本のストロングスタイルでもなく、ノアの潮崎豪の個性が限りなく出た一戦。藤田戦の様な内容は無観客で、しかも一回しか出来ない飛び道具。ならばと今回は正攻法で年間ベストを狙いに行った内容。濃度を高めるとよりマスターピースに近づくとは思うが、60分フルタイムドローという注目を引くけれども、超難解なお題に、方舟の旗手潮崎と反逆のストライカー拳王が、共に出した答えがこの内容。比類なき打撃戦で、死力を尽くしても気品溢れる内容に仕上がっている。名勝負。
評価:****1/2


全体評価:8.5