Pro Wrestling NOAH 

DEPARTURE 2020 day1 20/8/4
GHCナショナル選手権試合
中嶋勝彦(c)対拳王

「痛め付ける」ではなく、確実に「殺す」蹴りを持つ両者。その最大の武器を、変に捻らずに最大限活かした試合構築となったこの試合。

序盤から中嶋のギアが数段上がっており、特別な試合であると印象付ける。笑ってしまう程凄まじい各種蹴り技を中心に、その行間を埋める表情作りと適切なつなぎ技でアクセントを付ける。中嶋得意のコーナーでの踏み付けもエルガン戦の倍狂気が乗っていた。

 

拳王の雰囲気もコスチューム同様真っ赤な炎を纏った様なものではあるが、中嶋も同じく炎を宿す。色は時に冷たい青、時に漆黒。只どれも瞬く間に火傷する様な熱さである。まさにキラーモードに入った中嶋は、拳王を強制的にアンダードックに回してしまう。それ程の破壊力と狂気である。

 

その様にハードな展開が続く中で拳王は、破壊的な蹴りに対して、①シンプルに耐える、②反撃してからダウン、③すぐダウンしてのたうち回るといった複数のダウン方法を見せ、中嶋の攻撃をスケールアップさせていた。同じ蹴り使いならではの表現の巧みさは見逃せない。
 

そしてその土台があってこそ、終盤の蹴り合戦が単発にならずに際立つ。正直蹴り合戦が来る事は想定内だが、それを上回る張り手&掌底合戦をクライマックスにおける最大のスポットに持ってきたのは意表を突かれた。全て失神級の切れ味な中で、中嶋が、張り手を躱してからのカウンターを見せた事により、シュートを超えるハードヒットへと昇華した。最高の破壊力ある攻撃を最高の速度で行うのだから文句の付けようがない。


常に拳王を打撃で凌駕し続けた中嶋が、KOで破れるのは、違和感は覚えるものの、説得力は十分。ギアを上げてもまだまだ余力を残す中嶋の恐ろしさと、それに立ち向かいながらも、打撃で1本では勝押し切る事は出来ない、ならカバーする技を使いつつ、反逆ベビーという立ち位置を踏まえた試合運びを見せ、クレバーな所を示した拳王。両方の魅力が光った好勝負。
評価:****

全体評価:7.5

Pro Wrestling NOAH 

DEPARTURE 2020 day2 20/8/5
GHCヘビー級選手権試合
潮崎豪(c)対丸藤正道

「三沢オマージュ」三沢没後のノアにおいて、特別な試合には幾度となく出てきた過去と現在を繋ぐキーポイントである。そして今回それに加えて、デビュー22年の丸藤の歴史を辿っていく大きな軸も存在する事から大ボリュームになるのは確実。実際丸藤の多彩な得意技をテンポ良く腕攻めに絡めながら披露していく。

 

ハードヒッター王国のノアにおいて、受けで試合を構築する事に、特段長けている潮崎だからこそ、丸藤が攻めに攻める展開になるのは仕方ない。只細かく積み上げた中盤までの展開を経ても、終盤も丸藤の得意技オンパレードは続き、防戦一方のままの潮崎。ノスタルジックにさせながら、技の独創性と完成度に惚れ惚れする良さはあるものの、「丸藤の歴史を辿る」ものであって、「ノアの至宝を争う頂上決戦」というテーマからは逸脱している。腕攻めでベースを作った上で、昨日の前哨戦の決まり手である、パーフェクトキーロックも一回長めに使ったものの、すぐ新パターンを含む虎王押しにシフト。ここまで来たら雪崩式や断崖式、ノアを象徴するハードなスポットを行う手もあったが、それを選ぶ訳でもなく、結局チョップ合戦に戻ってしまう。

 

潮崎の反撃として繰り出した三沢オマージュのエメラルド・フロウジョンやエルボー連打も、本当はスケールアップさせた段階で決めたかったが、丸藤の得意技オンパレードが強く来すぎてしまった為、結果軽くなってしまった。前日の中嶋対拳王は、目玉となる蹴りの応酬を超えた張り手と掌底の応酬を配置した事により、特別性を強めたが、今回は上手く纏める為、ネガティブな意味での定番のチョップ合戦や三沢オマージュであった。何でも出来過ぎてしまうが故に陥ってしまった内容。終盤の攻防で、中盤迄の積み上げを回収出来なかったのが全て。

中々良い試合。
評価***1/2