2017名好勝負集 
 

3-2-1 BATTLE! Wet Hot Seattle Summer 17/7/28
ティモシー・サッチャー対ダニエル・マカベ
グラックやビフが去り、長く保持していたEVOLVE王座の王者時代は実力を発揮出来ず、ヒールターンで本来の姿を見失ってしまい、EVOLVEを離れ、ドイツWXWをホームリングとしてUKマットを転戦している。だがこの地下室の様な会場で、本来見せたかった自身の姿を存分に発揮するのであった。
対するマカベは、ローカルヒーローというべき無名の若手だが、グラウンドテクニックは中々のものを持っていて、それに加えてサッチャーの世界観に付いていける柔軟性を持っている。それでも技術の差・体格の差は圧倒的で、殆どサッチャーが掌握。
ロープにも振らせず技も打たせず、攻撃では関節を絞り、苛烈な掌打で滅多打ちにしていく。このワンサイドを最後まで貫いたからこそマカベの決死の反撃が活きてくる。バックドロップ一発が超大技に見える仕掛けは、大技がポンポン出る現代プロレスと対極にあるが、それでも熱狂を生み出せるのだからこの試合の構築は成功している。マカベも現代的な大技連発に行くのではなく、世界観を壊さずに攻めるのは見事。キャトル・ミューティレーションというアメドラを思い起こさせるのも良い。最後まで壁として立ちはだかった戦闘マシーン・サッチャーに対しアップセットを起こすには相応しい働きを見せた。
サッチャーの世界観・スキルが久しぶりに色濃く反映された名勝負。対するマカベも無名ながら隠れた素養を見せ、この一戦に貢献してみせた。名勝負。
評価:****1/2

 

PWA Call To Arms 2017 17/8/4
PWAヘビー級王座戦
ロビー・イーグルス(c)対ウィル・オスプレイ

オスプレイのオーストラリア遠征ツアー。まずはライアン&マディソン・イーグルス夫妻が主宰のPWAに参戦。対するは、PWA王者、ライアンの弟、マディソンの義弟ギミックのロビーとの一戦。ロビーは、直線的なストライカータイプ。そこそこ威力もバリエーションもあり、加えてハイフライングと投げ技を得意とする選手。スタイルといい、立ち振る舞いといい、サブミッションのない若かりしデイビー・リチャーズを彷彿とさせる。
対するオスプレイも、打撃に対応するどころか、打撃でも上回ろうとしつつ、ハイフライングでは難易度、キレ共に圧倒。技の間、バリエーション、美しさとどれを取っても最高級品。見るたびに精度が増し続けている。更に試合運びもイーグルスに合わせた試合展開にしながら、自分も際立つ様に作り上げている。打撃、ハイフライングに加えて、キャトル・ミューティレーションや柴田勝頼オマージュの串刺しドロップキックを放つなど、貪欲に自らの幅を広げようとしている。その様なハイテンションで中盤まで乗り切って、いよいよネタ切れかと思わせながらも、気合いでの起き上がりや場外戦等で何とか繋いだ上で、最後は垂直落下技や必殺技の連発で最後の仕上げ。ムーブに頼っている所はあるけれど、最後の際の部分で、大勝負さを損なわない試合運びが身を結んだ格好。オスプレイの完成度の高さに圧倒されつつも、ロビーも置いてかれず、よく見事に付いて行き、約25分のロングマッチを、ハイペースを保った上でやり切った。これからブレイクするに値する隠れた実力を見せてくれた。もちろんオスプレイの方がムーブ、動き、表情、試合運びどれを取っても上なのは間違いないが、ロビーも団体のトップとして意地と気概を見せた。ゲストであるオスプレイが王座奪取というサプライズを含めて、非常に満足感の高い一戦。
文句なしに好勝負。
評価:****1/4

 

MCW Ballroom Brawl 2017 17/8/5
MCW インターコモンウェルス王座戦
アダム・ブルックス(c)対ウィル・オスプレイ

オスプレイのオーストラリア遠征、続いての相手はアダム・ブルックス。ハイフライング中心の軽量級の選手だが、今回はヒール役を担う模様。小馬鹿にする動作を常に見せ続けるも、地力に勝るオスプレイも常に余裕を保ち、優位に立ち続ける。引っ張るオスプレイ、食い下がるブルックスの構図。場外戦も駆使し何とかロングマッチを構築。ブルックスも伸びやかなハイフライング、一定の対応力と素養を見せていくが、それを凌駕するオスプレイの充実度が凄まじ過ぎる。ブルックスがヒールプレイをしても、危険技を放っても乗り越えられない壁を感じさせる動きのキレ、エモーショナルな表情と所作とイーグルス戦に続き、改めて完成度の高さを示した。30分近いロングマッチになってもネタ切れを感じさせず、それでいてブルックスを光らせる所まで次元が到達しているのは見事。相手が素養はあるがローカルの中のトップということもあり、改めてウィル・オスプレイの神童ぶりを認識する一戦。
好勝負。
評価:****

 

Defiant Wrestling Defiant #1 17/12/5
ディファイアント・レスリング世界王座戦
マーティ・スカール(c)対オースチン・エリーズ

当初はカービィ対マーティの王座戦であったが、試合前にカービィをエリーズが急襲。GMであるスチュ・ベネット(ウェイド・バレット〕に難癖をつけ王座戦を要求。拒否するベネットを遮る様に王者マーティが登場。マーティが了承し、王座戦へ。
ここ数年でトップレスラーの地位に上り詰めたマーティ。全てを自分の世界観に持っていく事が出来る選手だが、各メジャー団体・インディー団体で王座を獲得し渡り歩いて来たエリーズの前では、マーティの技術も無効化。一挙手一投足の美しさに目を奪われる。得意のムーブと基本技が中心だが、エリーズの健在さに驚嘆する内容。試合自体は、遺恨が加速する訳でもなく、スープレックスの耐え合いに時間を取る等、ベビー寄りであるマーティがチープ・ショットを狙い続ける等歪さが残る構築。演者が演者なのでそれなりに形にはなるものの、もう少しドリームマッチとして自然な形でやらせてあげたかった。
中々良い試合。
評価:***1/2

 

OTT Third Anniversary Show – Dublin 17/10/7
マット・リドル対”スピードボール”マイク・ベイリー

テコンドー対MMAの異種格闘技戦再び。MMAの雰囲気を感じさせる攻防を行った後、そのままシームレスにカナディアン・デストロイヤー合戦に持っていく独創性。意表を突いた攻防で度肝を抜いた後、そのままベイリーの場外ダイブから場外戦へ。そこでも激しい蹴りの応酬と観客席でのぶら下がり式三角絞めという求められているハードヒットと自由度の高い攻防を織り交ぜた作り。それが全く互いを邪魔する事なく、混ざり合っているのだから恐ろしい限り。その勢いを持ったまま終盤へ。終盤も打撃の応酬と互いの得意技を織り交ぜた展開。自由度が高かった内容から王道のハードヒッティングにいつの間にかスイッチしているのも凄まじい。WXWで戦った時のシューティング・スタイルを更に昇華して熱量の高いものに仕上げている。必殺級の技を返し合う展開だが、変にライバリティーを作り合う等の装飾もせず、その場にあった攻防を提示しているので、しつこさを一切感じないのも見事。時間もロングマッチではないが、互いの持ち味を凝縮した一戦となっている。ウォルターやキースらとのスーバーヘビー路線とはまた違う、相手がベイリーだからこそのソリッドな肉弾戦となっている。名勝負。
評価:****3/4