「それでどうしても飛びたいと思ったおいらはさ、とうちゃん、かあちゃんとじいちゃんに言ったのさ。『モンシロチョウはおいらとおんなじように細長い。あいつら青臭いキャベツばっかり食ってるのに、おれらとちがってあいつら6週間くらいで羽生やしてひらひら飛んでく。あったかい春の陽射しの中で・・・、ふわふわ・・・、ひらひら・・・飛んでく。おいらずっと地面の中で腐った葉っぱや木の実ばっかし食って一生終えたかねえ。あいつらみたいにいつか空を飛んでみたい。空を飛んで上からおいらの森やはたけがどんなふうに見えるか見てみたい』」。

 「とうちゃんは『やっぱしおれらが巣から落ちてたヒナドリを食ってたとき生まれた子だからかなあ。子供を授かるときにゃーやっぱし、ふつうの木の葉とか木の実とか食ってねえとだめだなー』って言うしかあちゃんは『あのとき私がやめようって言ったのにあんたがおとなしく寝てくれなかったのが悪いのさ』って言うし。じいちゃんは『ミミズが出てきて6億年くらいで鳥が出てきたから、お前も6億年くらい生きてたら飛べるかもしれん』て腹かかえて笑ってるのさ」。

 「だけどだよ。動物はすごい速さで進化してるよな。レッサーパンダやゴリラは二本足で立ってるし、チンパンジーは自動販売機使ってジュース買うし、象は絵を描くし、占いできるタコもいるし、そしたら飛べるミミズがいても不思議じゃないよな。そう思っておいらもきっと進化できると思ってやってみることにしたんだ」。

 「モンシロチョウの青虫はキャベツばっかし食べて飛べるようになるから、おいらもキャベツ食べ続けたらきっといつか飛べるようになると思ったのさ。だけど近くにゃあキャベツがなかったからね、かわりに鉢植えのサボテンを食べてたのさ。ええ?青かったらいいだろ?それでそうやってサボテンを2週間も食べ続けたのさ。さすがにとげとげは残したよ。サボテンは、硬くて青臭いし、おいらの口にゃあ全然合わなかったんだけど我慢して食べ続けてたら、まず、頭は痛くなるし、4-5日たったら吐き気はするし一週間でおなかは痛くなるし、二週間目になったらめまいはするし、つらかったよ。それで3週間たったらさー。こんなふうに羽はえてきたのさ。え?見えないって、ほら、ちゃんとモンシロチョウみたいな羽が背中に生えてるだろ、でも大きさとか形とか模様が見るたびに違うんだよな。でもかっこいいだろ、おいらはモンシロチョウより進化したんだよ。青臭いサボテンを食べ続けた成果だね」。

「ええ?羽なんかはえてないって?じゃあおいらはどうやってこのくすの木の上まで来られたんだよ。なに、小学生がつまんで投げたって?とうちゃんやかあちゃんみたいにおれがおかしくなったって思ってんのかい。だけどあんたも見るたびに大きさが違うよな。進化してんだねー。何食べて進化してんの?だけどなんでぶるぶるふるえてんの?え、おれがふるえてるだけだって?大きさも一緒だって?まあいいや」。

「とにかくあんたはこうやって俺が大空に飛び立つ前におれの話を聞いて生き証人になってくれるってわけさ。ところであんた足が6本もあるし、真っ黒で羽もはえてないから俺の仲間じゃないよな。ええ、ありだって?まあだれでもいいからおれがどんなふうに飛び立って、どっちに行ったってもしおれのこと尋ねる奴があったら伝えてくれよな。おれもう飛び立ったらここには戻ってこねえからさあ。それは昨日夢で見たんだ。朝見たから正夢だよー。さあて、言うこと言ったからそろそろ飛び立つよ。一、二の三と、あーっ、すっげえ、なんかおしりの方がちょっと痛いけどもうくすのきがはるか彼方だよー。ああ、どんどん小さくなってるー」。

「そう言って、それでそう最後に叫んでミミズはいなくなったのさ」

これがそのミミズの話を聞いたアリが語ったありのままの話だ。

 

ツバメが昨日生まれたばかりのひな鳥の食べ物を求めて飛ぶ。畑の上を目をしっかりと見開き小さな虫たちを一つも見逃すまいと。今、ツバメは農家の脇のくすのきの枝にくねくねとした生き物がひっかかっているのを見つけた。そしてそのくねくねとした生き物は今、この瞬間に枝から落下した。

「あ、落ちる。キャッチ」。

ツバメは空中でたくみにその生き物のおしりをくわえた。巣に急いだツバメは一匹のヒナの赤い口めがけてその生き物を押し入れる。

ひな鳥は3週間後大空に飛び立って行った。あのミミズが望んだように。