プラセボ効果について
薬の働きを調べる方法に、形は本物の薬と同じだが、実際の効果のない薬(偽薬/プラセボ)を使う方法があります。本物の薬を飲んで効果があった割合と偽物の薬を飲んで効果のあった割合を調べて、偽物の薬より、本物の薬で効果のあった割合が充分に高ければその薬の効果があった「効く」と考えるのです。
ではなぜ偽物の薬(偽薬/プラセボ)を飲んでもらう必要があるのでしょうか。それは偽物の薬(偽薬/プラセボ)でも本物の薬と同じように実際に効果があることがあるからです。ではなぜ偽物の薬を飲んでも効果が出るのでしょうか?たとえばなぜ全く痛みを抑える作用のない偽薬を飲んで痛みがとれるのでしょうか?
人は痛み止めを飲むとき、ただそこにある薬を水で流し込むわけではなくて、お医者さんがあるいは薬剤師さんが「痛みが取れると言っていたから」それを信じて薬を飲むのですね。そして薬を飲んで痛みが消えるのは、薬の効果と、薬が効くと信じたという、心の働きの両方があったからですね。
[薬の効果を信じる]+[薬の効果]➡[痛みが消える]
では偽物の薬を飲んで痛みが消えたとしたら、[薬の効果]はないのですから、
[薬の効果を信じる]+[薬の効果]➡[痛みが消える]
[薬の効果を信じる] ➡[痛みが消える]
と書けますね。
これはもともと人間の心に備わった働きで、薬という物質の効果ではないのです。でも実際に薬が効いたように見えますから、薬の効果の実証のためには厄介な現象なのです。でもこの厄介な現象は防ぐことができないので、薬の効果を調べる試験では、飲む人に知らせずに偽の薬を飲んでもらわなければならないのです。薬の効果を科学的に証明することは、この心の働きを除外して、なおかつ薬の効果があるということを証明することだということなのです。
プラセボ効果とは、薬の効果の証明のためには邪魔な現象で、実験結果を狂わせてしまう有害な雑音として、まるで煮物のアクのように厄介な副産物として捨てられてしまうのですが、心の働きの現れ方として見ると、信じることによって身体の症状が変化するというとても興味深い事実を示しています。
私は薬の効果の証明の中で現れるプラセボ効果よりは、肉体に影響を及ぼす心の働きを認め、心の働きを現実に前提として受け入れているプラセボ効果に、大変関心があるのです。