名前を呼んで。
それだけで良いの?それなら何度だって、呼んで上げる。君の耳に届くよう、どれだけだって紡いであげる。
囁くような言葉がまるで甘い、睦言のように、打つなんて気付いても居ない。
猫になりたい。
陽だまりの中丸まって明日の事も考えずに、ただそこにあるものだけを享受して、明日は明日の風が吹くさ、何て。
嗚呼、猫になりたい。
陽だまりの中、縁側に丸まって我関せずの姿勢を貫いて、暖かな膝の上、我が物顔で占領している猫に。
怖いものばかり、この世には溢れて零れて。
だけど、こうして、ぎゅって手を繋いで、しっかりとしっかりと確かめ続けられたなら、怖いことだって超えていけるよ。
怖いものばかり、この世には転がっているけれど、大丈夫、本当はちゃんと超えていけるから。
蹲って待ってた。
ずっとずっと、ただ待ってた。
多分、多分ね、きっと、絶対に、君の事を。
優しい顔で貴方は笑った。
優しい言葉で着飾って、優しい笑顔で頷いて、解っているよと。
…だけどねぇ、本当は解ってなんて無いでしょう?私が今、貴方に責められたいって、どんなに、懇願しているか。
貴方は私を切り裂いた。
私がどれ程貴方を欲していたか、貴方は知らないのでしょう。だからこんなにもこっぴどく、貴方は私に刃を突きつける。
もしもそうで無かったならば、絶対に口にしないで。
更に惨めになるだけだから。もういい加減、貴方を嫌いにならせて頂戴。
貴方の背中に残した戯言に、一つ一つ応えるように貴方は頷いて、それでも欲しい言葉はくれなかった。
嘘じゃ意味が無かった。戯れじゃ足りなかった。
騙しあいなんて、結局柄じゃない。
優しい貴方の背中は大きくて冷たくて、苦しくて、優しくて、切なかった。
何処にだって行けるよ。何処にだって、行きたいと望むなら。
行こうと願うなら、歩き始めるならば。
何処にも行けないよ、何処にも。どれだけ望んで願って祈っても。
だって此処もあそこもあっちもこっちも全部同じ、日常が待っているだけ。
何処にでも行けるよ、何処にだって。逃げたいと望んでいないなら。