とあるバス停の前でタクシーが停まった。「ここからバスに乗れば目的地に着ける」との事。
まぁその場所に行くのが目的ではなかった為、その周辺を歩いてみる事にした。
歩きだして5秒ほどで、周囲の視線に気付く。
刺すような視線。猛獣が獲物を見定めるかのような視線っていう類のモノだ。
『なんだかよくわからんが危険』
日本に住んでいてはあまり使われることのない、体のどこかに備わったセンサーがそう告げる。
汗腺から一気に汗が噴き出てきた。心臓の動きが急激に高まり、息が苦しくなった。
歩いている先に、身長190cmはあろうかという黒人が2人。
ただ単に、こちらに向かっているだけ。
しかし、何故か普通にすれ違うという想像が出来ない。
絶対に何かしらの接触をしかけてくる、それも良くない方向のもの、という事が何故か解ってしまう。
危険、危険、・・・体がサインを出す。
体が固まってしまい、歩けなくなってしまった。棒立ち。言うなればそういう表現が正しい。
しかし、その二人組が十数m先で、急に「やれやれ」みたいなジェスチャーを取った。
その刹那、頭に衝撃が・・・
気がつくと地面に横たわっていた。ズボンのポケットを何者かがまさぐっている。
その手はサイフを見つけ、何の躊躇いもなく引き抜いた。
中身を確認したらしく、上から「しけてやがる」みたいな声が聞こえた。
万が一を考えてカードは宿に隠してきて、現金50ドルほどを入れていただけだった。
気付かれないようにうっすらと目を開ける。顔が向いている方に一人立っていた。
背後にはもう一人の気配がある。どうやら二人組のようだ。
しばらく、気付いてはいるが、とにかく気を失っているふりを続けた。
すると、背後の一人がとんでもない一言を吐いた。
「殺してもいいよな?」
それを聞いたときに、汗腺がまた開いたのがわかった。
バっと立って思いっきり走るか・・・?
まず体が動くか確認した。二人に気が付いている事を悟られないように足、手、首をわずかに動かす。
体は大丈夫であった。そして、一気に立って走った。学生時代でもこんなに機敏に動いた事は無いと思う。
後ろでは何か叫んでやがる。だが、聞き取れない。
すると、後方から大きな音がした。
明らかに発砲の音である。3回ほど聞こえたが、無事当たらずにすんだ。