愛知県
母上がひと月程前からサワガニを飼い始めた。話せば長くなるが、元は食用である。
お客様に丸揚げにして出す(サワガニは生で食べちゃダメな生き物)予定だったのが、忘れたらしい。
忘れられていたカニ達が、腹を減らしているだろうと、餌をあげたところ、その食べる姿が可愛くて、食べるに食べられなくなったとの事。
餌…。
米粒である。
何を食べるんだろうと、猫仔に相談したら
「カニ…だから、おむすびはどうだろう?」
…という事になったと。
…それは、あの…さるかに合戦…?
昔話にいつわりはなかったらしく、冷ましたご飯をあげてみたら、わっと群がり、手(ハサミ)に手に米粒を持って食べ始めたそうだ。
よく絵本では、カニが両手でおむすびを捧げ持っている姿が描かれているが、実際は両手で米一粒を持ち、それを体に対して垂直方向に持ち替え、縦にして口に運ぶ。
米一粒を無心に食べる姿、とろけてしまった米を両ハサミで交互に掬って口に運ぶ姿。
満腹時に米を目の前に差し出すと
「いりません。」
とばかり、ハサミで押し返す仕種。
…なんかにやられてしまったらしい。
そして更には…
「雑食だから、動物質の物もあげた方がいいかもよ?」
の、オイラの言葉に、余ったホタテのひもを細かくしてあげてみたそうだ。
カニは例の如く、お行儀良く両手で持って口元に運ぶ。
その時、母上はある事に気付いた。
カニの中にはハサミが一つしかない、通称『手取れちゃん』と呼ばれる子がいるのだが、他のカニ達が、くわえたホタテを縦に引っ張ってちぎろうとするのに対し、手取れちゃんはくわえたホタテを繊維方向に引っ張り、上手に裂いて食べるのだ。
賢い。
先頃亡くなった兄鳥が、不自由な体を頭で色々補っていた様に、カニも頭脳で補助しているのだ。
カニがこんなに面白いとはっ!!
すっかりカニにメロけた母上は、毎日仕事の合間に約20匹のカニ全てに餌が行き渡る様に気を配り、水質管理に心を砕いている。
母上は水槽掃除の為にカニ達をひょいひょいつまんで移動させる。
オイラもカニを掴める。
しかし猫仔は掴めない。
背中側は触れるが、腹側が気持ち悪いのだと。
しかも水槽にいる時は、緩慢な動きをするカニが、一度出されると、隠れる場所を求めて全力疾走する。
その落差にめんくらった猫仔は叫んだそうだ。
「愛知県が横に走ってくっっっ!!!」
愛知県。
カニの甲。
現在、我が家の食料調達部隊には、愛知県…もとい、サワガニ購入禁止令が出ているそうだ。