2:成毛滋(なるも.しげる)の体験的リズムマスター論



成毛滋:(以下のサイトは誰が作ったかは不明の非公式サイトです。氏に関する
記述はあまり見当たりません) 

 『成毛氏はドラマーの角田ヒロ氏と「ドクタ-.シーゲルとフライドエッグ」等を
結成。当時若手の高中正義(現在ギター)にベースを担当させる。角田ヒロ氏の
「メリージェーン」などのギターを後年録音、またマルチ.キーボーディストぶ
りを発揮し佐川急便などのCM音楽を作成。東京お茶の水の「石橋楽器」「ブリジ
ストン」等が関係筋。早くから音楽界に見切りをつけビジネス界に転身』

日本人に<リズム音痴>からの脱出は可能か!(成毛滋 1972年 )

リズム、リズム感...., リズムがいい....などといった言葉がよく使われてい
るのをきく。しかし、こういう言葉の持つ意味をわかってる人がどれくらいいる
のだろうか。おそらく、ほとんどの人は訳もわからずに使っているのだと思う。



僕も、大学2年の時、あの天才ギタリスト、Iさんに会うまでは知らなかったこ
とだ。
当時の僕は、アマチュアバンドでパーティーやコンサートなどに出演したり、い
ろいろなエレキギター合戦にかたっぱしから出場しては優勝し、賞金をかせぎま
わったり、全国で個人技能賞まで取ったりして、かなり天狗になっていた頃で
あった。コンテストあらしとしてその名を知られ、ゲストのプロのバンドにま
で、恐れられるほどであった。だから初めてIさんに紹介された時もどうせ大し
たことはないだろう...くらいに思っていた。




 「ギターなんかやめろ」といわれて


Iさんと会うことになったのも、僕の友人がレコーディングすることになった。
たまたまバックバンドがいなかったので、臨時のメンバーを集めることになっ
て、そこへ僕も呼ばれ、それで気楽に友人の家に行ったら、Iさんも来てい
た....といったことからだ。そこで友人は、僕を「アマチュア-日本一の成毛君
です」といって紹介した。
Iさんは「フーン」とまるで興味のなさそうな顔で答え「ちょっと何か弾いてご
らん」と言った。




この野郎、ちょっと驚かしてやろうと思い、ギターをアンプにつないでまず
ちょっとポローンとCのコードを弾いてみた。すると突然Iさんは.,,,,,,,.
「あ、おまえギターなんか止めろ!」と言ったかとおもうと、その場を立ち去っ
てしまった。
まだ何も弾いていないのにこんなバカな話はない。頭へ来るというよりあっけに
とられてしまった。



次の日、友人の家でIさんに「一体、どういうことなんですか!」と問いつめる
と、「おまえが今までやってきたことは、全てまちがいだ、いわばウソを覚えて
きたようなものだ、だから もし おまえがギターをやっていきたいんだったら
まず、今までやってきたことを全部忘れろ。そして正しい知識を1から勉強し直
すんだ。そうすればおまえでも、ギターを弾けるようになるかもしれない」と言
われた。



まがりなりにも全国大会で日本一になった僕である。この言葉はきつかった。し
かし その場はIさんにすごい何かがあるような気がした。いわば昔の剣豪がひ
と目見て『ムム!こやつできるな』と思ったような直感的なものを感じたのであ
る。



しばらく考えて僕は言った。「わかりました。全てをわすれますから1から教え
てください。」「よし!」その時のくやしさはなかったが同時に、何かを身につ
けられるような期待も湧いた。




日本の音楽にはリズムという考えがなかった

はじめ僕はベースをもたされた。

「いきなりギターでやってもわかりっこないからまずベースで練習しろ」と言わ
れたのである。何を弾かされたと思ったら「ド~ソソ~ 、」という単純なフ
レーズである。


これをゆっくり、くり返して弾いてみろと言う。そこで弾いてみると「何だ!そ
れは!リズムがまるでないじゃないか!」と怒鳴られた。「おまえが弾いている
のはメロディーだ。これはリズムのリフだぞ。それじゃあ民謡じゃないか!」と
言う。一体何のことだかさっぱりわからない。困っていると「じゃあ それを2
ビートで弾いてみろ」といわれた。



「はっ?」と聞き返すと、「次に4ビート、8ビートでその同じリフを弾いてみ
ろ!」
といわれた。ますます困ってしまった。何をやればいいんだか、さっぱりわから
ない。
するとIさんは、ベースをとり「見てろ!」と言ってそのリフを弾きはじめた。
「これが2ビートだ!」と言ってあのフレーズを引き続けている。



「次に、これが4ビートだ」というのだが弾いているフレーズはまったく同じで
テンポも全く同じ。どこがどうちがうのか。さっぱりわからない。次に「これが
8ビートだ!」と言ってIさんは弾いているのだが、やっぱりまったく同じであ
る。「わかったか?」と言われても全くわからない。



それからはもう地獄の毎日である。Iさんも仕事があるのでそうしょちゅうは会
えない。
僕のバンドも仕事をしていたので、葉山や軽い沢に行っていたがIさんに会える
日は、どんな所からでも通った。だんだんわかってきたことは音楽には3つの要
素があるということである。




それは、1 メロディー(旋律)2 コード(和音)3リズム の3つである。そ
してこのリズムは、日本語にない。なぜなら日本の音楽には(一部の地方の民謡
を除いて)リズムがないからである。和音もあまりなく、日本の音楽というのは
主に

1 旋律(メロディー)2 間(タイミング)の二つの要素から成り立っている。
(もちろんいろんな説があるが、、、)


そして、この『 間 』というのは、外人には絶対に理解できないものである。
日本舞踊や歌舞伎などは、この『 間 』が大事なのだが、外人に教えても絶対
に理解できないそうである。



よくある、イョ~ッ、.......ポン! (鼓, つづみ等の)というのを聞いて、
外人は、「彼等は、どうやって、拍数を数えているのか?」などと質問して来
る。しかしこれは、拍数などというものでなく『イョ~』と言ってから全く感覚
だけで、この辺だなと狙って『 ポん 』と打つ。これが『 間 』であり、こ
れは日本人独特のものである。



      2ビート、4ビート、8ビートの違いをやっと会得


逆に日本人には、リズムに乗る...ということはできない。Iさんが僕にいわん
としたことはこのことである。即ち、いくら西洋楽器であるギターを持っていた
ところで、リズムがなかったら西洋音楽など弾けっこない。だから民謡じゃない
かと言ったのだ。



また、ギターは、メロディー楽器でもあるが、ベースは何よりもまず、リズム楽
器であり、次に和音のバスであり、和音の組み方に重要な楽器であるが、そのど
ちらも日本人には理解できない。従って、日本の楽器には西洋のベースに相当す
るものはない。



事実、太鼓や三味線、笛などはあっても、ベースは日本にはない。従って、日本
からは、ドラマーやギタリスト、ピアニストが生まれることはあっても、ベ-シ
ストが出る可能性はゼロに等しい。



現在日本でベースが弾けるのは、僕が知っている限りではたった3人だけであ
り、それ以上にベースの弾ける人は知らない。



ベースは、それほど難しい楽器なのだ。3ヶ月もすると僕は自分で弾けないなが
らもIさんが弾くのを見て「これは8ビート、これは2ビート」と言いあてられ
るようになると
「よし、これがわかるようになったらあとは自分で黒人の体の動きを見て勉強し
ろ」と言われ、Iさんとのリズム教室は終った。




それからは毎日、ディスコへ通い黒人の踊るところをジッと見ていた。
あんまり僕が踊らずに他人を見てばかりいるので追い出されそうになったことも
何度かある。それでも懲りずに通っていると、確かに彼等の踊りにはリズムがあ
るのがわかった。





日本人の常連やゴーゴーガールは、一見上手そうに見えるが、黒人に比べると、
リズムにのっていないのがわかる。特にうまいのと、下手なのを比べるとよくわ
かった。
なるほどあれが日本人と外人のちがいか....としみじみ感じ、自分のギターも黒
人が聞くとあの日本人の踊りのようにみっともないんだろう....と思うと恥ずか
しくてたまらなかった。



また、いろんなバンドを聞いたが、黒人バンドが一番リズムがよく白人バンドは
多少落ちることもあるが、フィルピンバンドというのはデタラメであることもわ
かった。(デタラメといっても日本人よりは数段ましだが...)




そして一年もたつと多少なりとも自分でリズムを弾き分けられるようになった。
1年ぶりでIさんにあったら「よくやった、これでおまえは、リズムを弾けるう
ちで一番下手なミュージシャンの仲間に入れたぞ」と言われた。どこまでも言葉
きつい人だが、何しろ今までは、一番下手な奴以下だったのだから、いくら指が
動いたところで、それは音楽でもなんでもなかったのだ。音楽の道のきびしさを
イヤというほど知らされた。

クラプトンにびっくりアメリカへすっ飛んで行く


ところがそうなると今度は他のバンドを見ると、耐えられなくなって来た。
今までは気づかなかったのだが、なまじ自分ができるようくなってしまうと、も
うそのリズムのない演奏などというのは聞いていられない。気分が悪くなってし
まうのだ。始めてIさんが僕の演奏を聞こうともしないで立ち去ったのがよくわ
かった。




全く日本人の演奏というのはメチャクチャでリズムも何もなく、バラバラなの
だ。しかも自分達は気づかない。それを聞かされるのはよくツメで黒板をこすっ
たり、フデ箱のフタで窓がラスをこする音を聞かされたようなもので耳をおさえ
て逃げ出したくなってしまう。



それ以後、僕は日本のバンドの演奏は絶対に聞かないようになった。
その後、大学4年の時だったと思うが、ある友人がアメリカから帰って来て、そ
いつがとって来たというテープを聞かせてくれた。「こいつらが今一番人気があ
るんだよ」と言って、彼がテープをかけてくれたのだが、その時の驚いたこと。



「すごい!」なんて生やさしいものじゃない。上手いのなんの.....もう話しに
ならなかった。ベースもドラムもすごいけど、ギターの奴のすごいこと。そのリ
ズムの良さ。フレーズもサウンドも良かったが、何よりそのリズムのすばらし
さ.....ビシーッと決まっていて、グングン引っ張っていく。全くケタがちがう
のである。



これがクリームであり、曲は「クロスロード」だった。
僕は今までやって来たことが急にバカらしくなり、すぐにバンドを解散してアメ
リカへすっ飛んで行った。




その時は、もうクリームは解散してしまっていたが、セントルイスでブラインド
フェイスを見ることができ、エリッククラプトンの素晴らしさにはもう涙が出そ
うだった。


エリックは、Iさんの教えてくれた8ビートをさらに進化させた16ビートを
とっており、同時に体全体で大きな2ビートをとっていた。これは初めて見るリ
ズムだったので、ホテルへ帰ってさんざん鏡の前で練習したが、この時やっと、
8ビートも16ビートも、根本的には、2ビートが大事のではないかということ
に気づいた。



その後、ジミヘン、フ-、エアプレイン等のステージのフィルムを見たが、いず
れも良いバンドはクリームに負けず、リズムがよかった。



日本へ帰ってから、また1年半ほど僕は一人で毎日リズムの練習をしていた。も
う黒人バンドなどは見ず、アメリカで仕入れて来たレコードを聞いてリズムにの
ることを研究していたのである。



同時に、他のバンドの仲間に会うと、いちいち「リズムのノリ」の話しをもちか
けてみたりしたのだが、みんな「そんなこと練習したって、どうせお客にはわか
りっこないよ」といって相手にされなかった。



その頃、Iさんに会おうと思って探したのだが、なかなか見つからず、やっと居
所をつきとめたら ノイローゼで入院しているということだった。Iさんはリズ
ム感もさることながら、音感もものすごく、ほぼ絶対音感に近い耳をもっていた
ため、毎日テレビやラジオから出て来る音楽を聞くと「ああ音程が狂っている!
ああリズムがのっていない!和音が違う、チュ-ニングが合っていない、、、」
などとすべてわかってしまい、ついにはノイローゼになってしまったのだ。こう
なるとあまり音感のいいのも考えものなのだが逆にいうと、そのくらい日本の音
楽水準というのは低いのである。





幸か不幸か僕はIさんほど耳が良くはないが、それでもテレビやラジオで音楽は
絶対聞かないし、第一持っていない。何よりつらいのは喫茶店やタクシーの中で
歌謡曲をかけられることである。




ロックをやりたければ、日本から出て行くべきだ



最近は、訳のわからない字あまりソングを歌っている奴等がいるが、あれは極度
のリズム音痴だからこそできる芸当である。ちょっとでもリズム感がいいんだっ
たらとうてい耐えられないだろう。それを歌う方も、あ客の方も平気でやってい
るのだから。いかに日本人はリズム音痴であるかということがわかる。





もし若い人で、これからロックをやろうと志す人がいたら、アメリカでもロンド
ンでもいいから外国へ行くことだ。日本人にいたら、どうしても街を歩いていれ
ば、どこかで日本人のリズム音痴音楽を聞いてしまう。




これは大変なマイナスだから、とにかく日本を出た方がよい。まちがっても、日
本のバンドなどは見ない事。僕はIさんに会うと言う幸運があったけれども、だ
れでもいい先生に会えるとは限らない。だから外国へ行って本物のステージを見
る事だ。
日本とはちがって客もみんなリズム感がいいから手拍子などを打つと、日本のコ
ンサートとは全くちがってのる。





お客も演奏もすべて日本とはちがうのだ。だから『8ビートピッキングだ』なん
だと言ってみたところで最終的には『外国へ行くこと』それ以外に、勉強する手
はないだろう。
「ロックをやろうという人は向こうへ行きなさい」
僕より若い人に、僕の言える唯一のアドヴァイスである。 


 1972年 音楽月刊誌「ガッツ」12月号P129~131より