友人のTさんは、

Dさんの名前をよく口にしていた。

どうやらとても尊敬しているようだった。


深い意味はなく名前を検索すると、

きらびやかで華々しい

順風満帆に見える経歴が出てきたけど


Tさんのホームパーティーで

「こちら、Dくん。」と紹介され

「どうも。」と口にしたDさんからは


どこか自信なさげな印象を受けた。


パーティーに来ていた別の人から

もういちど「Dさんは芸能人なんですよ。」と

紹介されても


ミーハーなところのない私は

なんとも思わなかったし


家が裕福なら音大に行きたかったくらいには

音楽が好きだったけれど


Dさんが書いた曲を

聴いてみたいとすら思わなかった。



ただ、みんなで談笑する私を

遠くからジッと見ていて


なんだろう?と感じた。


🌕


それから2ヶ月後


Tさんから

友人が大学で開く公開研究会に行こう、

というお誘いを受けた。


Dさんも一緒に。


待ち合わせでの立ち姿、

研究会での彼の立ち居振る舞いは

堂々として論理的で


とてもカッコいいものだった。



研究会を終えたあと

3人で食事をしていると


Tさんが「こいつ今は本命の彼女がいるけど、

前は三股かけてたんだ。みんなかわいい

とか言って。」と急な暴露をはじめたのだけど


Dさんはにこにこして

「うふふ〜」みたいな反応で


「ま、モテるよね。

女の子慣れしてるんだな」


と、やや軽い印象を受けた。


だから、

あの突然ひらりと届いたLINEにも

特別な意味は感じなかった。


🌕


帰りの電車で


「夢ちゃん真ん中で座ろう」と

Tさんが言い


3人ならんで席にすわった。


Tさんが「お、両手にチャラ男!」と茶化し

Dさんが「あはは、両手にチャラ男、ウケる」

と笑った。


私も笑いながら

カバンからクロレッツを取りだし

2人に「いりますか?」と尋ねる。


Dさんは

「あ、ありがとう。おれクロレッツ中毒なんだ」

と言った。


私は心の中で、

「私も。」とつぶやく。



電車内で連絡先を交換し、

家に着いてスマホをポケットから出すと


スマホ画面に

Dさんへ電話をかけた通知が表示されていた。


誤操作と思った。

当時はそれだけだった。



人生では、

なにげない1つの出来事に


あとになって

不思議な意味を見出すことがある。


そう。10年後の私のように。


*続く*