ある土曜日の夕方のことだ。
昔住んでいた町をZで通りかかり…抜け道を通ろうとしたとき
ゴールデンレトリバーを散歩させている中年の女性を見つけた。
その後姿には見覚えがあった。オレがまだ20代の頃、
年寄りの介護で生計を立ててた頃にさかのぼる。
Zの左パワーウインドゥを開け、呼びかける。「エガワさん!」ビンゴだ。
「ばたらさん?!久しぶりじゃない!!どうしてるの、今」オレは
教員をやってることを告げると、大いにエガワさんは驚いていた。
エガワさんは、介護をやっていた時のオレにとって貴重な仲間だった。
なぜなら……オレにとって「周りは全て敵!」状態だったのだ。
別に悪いことをした覚えはない。ちょっと仕事ができないと観るや否や、
すぐに徒党を組んで、攻撃にかかる…ギスギスした職場だったのだ。
オレは一年半耐えたが、警官の採用試験受けるのと、自己都合で
退職するのに「正当な理由」があれば失業給付が受けられることと、
上役が変わると知って、その老人介護施設をやめることにしたのだ。
また、エガワさんもそこの水に愛想を尽かしたのだろう。
今は別の病院で、ガンバっていることを知った。
オレは、お年寄りたちには重宝がられた。今は亡きマサイチさんにも
「やめちゃいかん!」と言われたのが昨日のことのように思われるのだ。
足の「魚の目が痛い」と言っていたマサエさんには、
自宅からプラモデル用の『精密ニッパー』を持ってきて、限界ぎりぎりまで
魚の目を削り続けた。そして、
「ばたらちゃんのおかげで、足が痛くなくなった、ありがとねぇ」と、
毎日のように言われたものだ。
エガワさんが言う。「あの人、クビになったわよ♪」と、
半ば茶化して、オレが言った。
「『あの人』が多すぎてわかりませんよ。」と
聞けば、クビを言い渡されたのは、ケアマネをやっていた、クメという
40代半ばの、人相の悪いというか『悪人ヅラしたババア』だった。
何でも、引き継ぎもなしに、出て行けー!と言い棄てられ、しかもその
『悪評』は、地元の殆どの病院や介護施設に知れ渡ることとなり、
遠く離れたところで「禄を食(は)んでいる」有様だという。きっと、
ケアプランに『嘘8000』でも並べたのだろう。あいつならやりかねない。
オレは、教員になって老人ホームに入ったマサエさんを訪ねたことが
あったが、その時しきりにマサエさんが口にしてた言葉を思い出し、
エガワさんに教えてやった。
「マサエさんが言ってましたよ。
『クメは悪いヤツだよ、本当に悪いヤツだよ!』ってね♪」
それを聞いたエガワさんは大笑いだった。オレも一緒になって、小悪党を
笑い飛ばしたのだ。そして、結論……
「マジメが一番よねぇ」『もちろん、エガワさんみたいに』
と言って二人は別れたのだ。
他人に「後ろ指を指される」なんてことは、誠意を尽くしている限り
無縁のことだと思う。
それを怠ったり、てめぇのことばっかりかわいがったりするから、生きる場所を
失うのだ。(でも、明日は我が身と心しておこう)
そんなヤツにかける言葉など、たった一つしかないな……。
『ざまあみやがれ!』