窓を覗いていたのかわからないが
バイクを駐車場に横付けすると
すぐに玄関灯がついた
鍵を差し込む前に
玄関のドアは開かれ、顔色の悪い旦那が突っ立っていた。
「おかえり」
(帰ってきたくなんかなかったよ、本当は)
心の声は正直で、旦那の言葉にすぐに反応した
ただいま……とは、もう言えない
「心配したんだよ」
(ほんとかよ)
私はもう、この男がどんな言葉を発しても
にわかには信じられないんだなと
再確認した
必要な事以外、話をしたくないと思っている
自分がいるおかげで
自制心を保てている
……そんな気さえしていた
「お風呂にお湯ためておいたから、
バイクで冷えた体を温めるといいよ」
(ありがとうって言わなきゃいけないような事を
しないでほしい)
(不倫したくせに・・・嘘つきまくったくせに・・・
そんな裏切り行為を平気な顔でできるヤツに
ありがとうなんて
感謝の言葉を何故
言わなければいけないのだろうか)
(ソレとコレは別と
わかってはいても
ありがとうは言いたくない)
自分の心の安定のためにも
立ち上がるためにも
言いたい事は言うし
言いたくない事は言わない
心の声にひたすら素直に従うのみ
……結果
「どうも」
それが精一杯だった
「昨日のアナタの質問に
今日は私が答えます、座って」
「はい」
ソファーに座る私の隣に座りたさそうな旦那は
私の表情を察してフローリングに正座した
「昨日、アナタの答えに対して
私がどう思っているか聞きましたよね」
「はい、ずっと気になってました」
「では、正直に答えますが……
それは蔑み
この一言に尽きます」
恐らく、旦那は違う答えを予想していたのだろう
一瞬、目が大きくなったが
すぐに肩を落とした
「何に対して私が1番
蔑んでいるのかアナタに想像できますか?」
「Masakiさんを裏切り
既婚者としてあるまじき過ちを
犯した事でしょうか……」
「勿論それもありますが1番ではありません。」
やっぱりわからないのかと一瞬落胆したが
イヤ、わかるはずないよなと
すくに納得する自分がいた
「私はアナタの仕事に対しての葛藤、不満、苦労、努力……
専業主婦だった頃もわかっていたつもりだったけれど
それは想像以上だったと
自分が今のポジションに至るまでに
身をもって知りました
だからこそ、どんな時も、どんなアナタでも
私はアナタの仕事に対する姿勢や情熱だけは
尊敬していました
いつ辞めてもおかしくないと思い
限界なら辞めてもいいと伝えた
過酷な時でも
アナタは身を粉にして働いた
辞めたいとは言わないアナタの姿を尊敬し
その対価にも心底感謝していました
それは口に出して
何度も何度も伝えてきましたが
アナタの心には響かなかった?」
旦那は
俯いたまま首を横に振っていた
「簡単に裏切る事ができるくらいだから
私がアナタのストッパーにならない事
それは、ある意味仕方がない
だけど、あれ程までに心血注ぎ
会社や従業員を背負って立つ立場にありながら
その事がストッパーになっていないアナタを
心底蔑みます
自分の仕事に
プライドも誇りもなく
逆に会社に泥を塗るような
そんな男、大っキライです」