帰宅ラッシュを過ぎていても
電車の中は身動きが取りにくいほど
混雑していた
引越してきた当初は
すし詰め状態の列車内から押し出されそうな人を
駅員さん自らホーム側より押し込んで
扉を閉めようとする光景に圧倒されたものだが
10年近くも目にしていれば
変わらない日常の一コマでしかなく
唯一変化した事といえば
人間観察の視点くらいだった
ヒールを履いてるからこそ
無理な体勢でもどうにか届く吊革に
必死で掴まり
電車が揺れた拍子にフラついて
ピンヒールで他の人の足を踏まない様
周りにぶつからない様
バランスを取る。
満員電車の中、余計な事は考えず
ひたすら無心で
この窮屈な空間から解放されたいと願っていたのに
数年前の事が思い出された
引っ越して以来
旦那と初めて電車デートをした日
友人が出演する舞台の
初日公演を観に行くことがメインで
帰りにそのエリアにしかない居酒屋に
寄り道して帰るプランだったため
その日は電車を利用した
日曜日ということもあって
いつもより列車内は空いている方だったけれど
普段、車通勤で
どこに行くにも車を利用する旦那は
混雑具合に驚いていた
「Masakiは毎日こんな人混みの中
押し潰されながら通勤していたんだね
話には聞いてたけど
実際に見ると壮絶だね
コレが毎日となると通勤だけでたいへんだ」
その言葉に色々と救われた思いで
とても嬉しかったのを覚えている
わかってくれた喜びで饒舌になった私は
ラッシュ時はもっと過酷な状況で
今日はまだマシな方であることや
他県にある前の拠点に通勤していた時など
家には寝るためだけに帰るような
感覚だった事などを小声で伝え
旦那は更に驚いていた
嬉しかった事はもう1つあり
行きも帰りも
バランスをとりやすい場所に誘導してくれ
混雑から避けるように
私の盾になり
ずっと手を繋いで支えてくれた事だった
私が他県に通勤している頃が
夫婦共に多忙のピークで
たまに喧嘩になっても
分かり合えなかった気がする
その事を今の旦那は
どう思っているのだろう
私にとって特別な日だったこの日の事を
旦那は覚えているだろうか
時間を巻き戻せたとして
旦那との歴史の中で
どこかに戻りたいだろうか
そんな事が浮かんでは消え
浮かんでは消えを
繰り返している間に
降りる駅に到着した
私が旦那に対して今思っている事で
ハッキリしている事は
もう、心にフタをせずに伝えよう
溜め込まない
言うからには
私自身も仕事の時と同様に
自分自身も省みる
ただし、その事は旦那には言わない
私の心の中だけでいい
今は、それだけでいい
そう自分自身に言い聞かせながら
家路に向かった