午後から月初会議だった私は
とりあえず、クローゼットから
歴代携帯を収納した箱を引っ張り出した。

中には2人分の大量の歴代携帯が入っていて
その内、旦那分はスマホが1台、
ガラケーが3台、PHSが2台と
思ったより少なく他10台は全て私の物だった。

年代的に一番新しいスマホ1台を
取り急ぎ充電しながら仕事に行く準備を始めた。

時間と心に余裕がある時に、
いつか綺麗に整理しようと、
旦那の仕事関連の書類や書籍、明細、フライトチケット、
使わなくなった2人分の携帯、財布、名刺入れを
いくつかの箱にラベリングして
クローゼットの目につかない奥の方にしまい込んでいた。

旦那自身は、整理整頓が苦手で
物が散乱してても気にしない。

家の事も、ほぼ私任せで
自分が毎日使うもの以外は
家のどこに何があるのかさえ
把握できていないのだから
箱の存在など、知る由もないだろう。

快適で過ごしやすい部屋と空間づくりを
心がけてる私に対しても、
そんなとこまでキレイにしなくていいよとか
掃除も頻繁にしなくても平気と、良く言っていた。

そんな旦那の目には、我が家はとても
キレイに片付いているように映るのだろうが、
突然の来客でも困らない程度に 片付けているだけで
私の中の完璧な状態とはほど遠かった。

気になるけど、手をつける余裕がなく
行き届いていない所は沢山あり
クローゼットの箱もその1つだ。

もし、私が旦那の言うとおり
今よりも何もしなかったら
家の中は荒れ果て
脱ぎっ放し、出しっ放し、食べっ放しで
数日でゴミ屋敷になるだろうと、いつも思っていた。

スマホの充電状態を見ると
まだ70%程度だったが
会議に遅れる訳にはいかないので
あきらめて家を出た。
 
確かこのスマホは、バッテリー40%位から
突然0%になったり、バッテリーの減りが
異常だったから旦那は数年前に
機種変更したはず。

あてにならないバッテリーと
電車通勤40分の合間に出来ることを
考えても、ムダな捜索は避けたい。

SIM無し、Wi-Fi設定無しの端末のため
LINEのチェックはあきらめて
発着信履歴、閲覧履歴、ブックマーク、アプリの種類と
隠しフォルダーや隠しアプリの存在はないか確認した。

有料と思われるエロサイトの利用が
見つかったくらいで
特に問題はなかった。

続けて、予測変換、写真、動画、マイファイルの内容を
チェックするも、そちらも怪しい点はなかった。

月初会議が終わったら、週明けクライアントとの
ミーティングに必要なPDFだけ作成し
現場でクレームやシステムトラブル、
その他に困った問題など起きていなければ、
今日は早々に切り上げて帰ろうと決めていた。

私が勤務する会社は、年末年始以外は
毎日営業しているため、休日も暦通りにはいかない。

休暇は別だが通常の休日であれば
会議やコンペなど重なった場合は
参加するのが
暗黙のルールだ。

その場合も、特に代休は取れないが
会議で休日出勤になった場合のみ
特例として
退社時間は自由に決めて良かった。

すべて順調に進み
予定より早く退社できそうと
帰る用意をしていたところ、
同じ役職で親友でもあるSが
 「Masaki、いつものメンバーで飲みに行くよ~口笛」と
テンション高めに言ってきた。

そうだった……
会議の後の飲み会は楽しみにしているお決まり行事なのに
旦那の事で、頭がいっぱいで予定に入れてなかった、
いや、忘れていた。
それ程、私は必死なのか?あんな嘘つき旦那なのに……
自分でも驚いた。

親友Sには、
事情はいつか話したいと思っているけれど
急ぎの用事があるから今日の飲み会は遠慮したいことと
ドタキャンのお詫びを伝え、わかってくれたが
逆に、心配をかけることとなってしまったショボーン

私は大丈夫だから心配ないよって
精一杯の笑顔で返したけど
信じてもらえただろうか……
ホントごめんねえーん

帰りの電車で、今度は
メールの送受信履歴を確認した。

女性からの受信メールは私以外は何もなく
その他の受信メールでも、怪しい内容のものはなかった。

続けて、送信履歴を確認すると、
私以外の女性に1通送った内容があり
宛先の名前に覚えがあった。

本文には
line
とだけ書いてあった。

タイトルも添付ファイルもなく
意味不明な内容だが
機種変更のお知らせで
送ったのだろうか?

疑いの目で捜索していなかったら
女性に送ったメールとはいえ
ラブラブな内容でもなく
ハートマークや絵文字もついていない
意味不明なこのメールを
私はスルーしたかもしれないと思った。

更にメールに関しては送信も、受信も
削除された可能性が高く
今見ているものが全てでは無いだろう。

この唯一残っているメールも
意味不明だから、疑われないはずと消さなかったか、
消し忘れたかのどちらかだろうと推察した。

旦那の携帯を疑いの目でチェックするのは
何年ぶりだろう……

旦那はここ数年、ロックもかけず
テーブルにスマホを置きっ放しだった。 
どんなアプリを入れているのかなとか
興味本位で見る事は
年に1、2回あったが
疑いの目では見ていなかった。

見られても旦那は怒る訳でも、取り乱す訳でもなく
堂々としていた。

ついでに一通り見てみるか位の
軽い気持ちで色々見たこともあったが、
何か驚くようなモノが出てくる事もなかった。
……と、思っていただけで、実際は
その時、この意味不明なメールを
見落としたのかもしれない。

ずっと握りしめていたスマホは
かなり熱くなってきて35%のバッテリー残量を
確認したタイミングで電源が落ちた。

旦那は当直で明朝まで帰宅せず
私自身も食欲ないから、ご飯は抜きにしようと
どこにも寄らず帰宅した。

すると、家の電気がついている……
外出前には必ず確認して出ている為
つけっぱなしだったはずがない。

何故!?

自分のスマホを急いで取り出し
片手で緊急発信をスタンバイしつつ
そーっと鍵を開けると
いないはずの旦那がいたガーン

何?なんで、いるの?

お帰り。具合が悪くて……
寒気がして喉も痛くて、途中から熱も上がってきたから
当直変わってもらって帰ってきた

熱って何度あるの?

13時頃測った時は38.5度あったけど
薬飲んで今は37.2度で、だいぶ楽になった

何か食べたいの?

いらない、食欲ないから。Masakiは食べたの?

食べてないし、食欲ないからいい

えっ、Masakiも具合悪いの?

具合は悪くない

でも、食欲ないの?どうしたの?何かあった?

間違いなく、この旦那の言葉で、
私の怒りスイッチは入ってしまった。
抑えられなかった。相手は一応病人なのに……

何かあったか?
それは、Rui自身がよくわかってんじゃないの?

え?どういうこと?

どういうことかって?
すっとぼけてるけど、私に本当のこと言ってないよね?
わかんないとでも思ってんの?

……

黙ってるつもりなら、さっさと寝なよ。

昔は年に1度位、次第に数年に1度位の割合で
旦那に対しての不満がたまりにたまると、
ブチっと今みたいに、キレることがあった。

それは、旦那が予想もしないタイミングで
前触れもなく突然に起き
マシンガントークで
まとめて怒られるため
別人格降臨と、旦那は言っていた。

私の中では別人格ではなく、コレが
本来の私の姿なんだろうと、感じていた。

わかった。とにかく部屋に上がって。座って話そう。

寝なくていいわけ?後から体調悪化したとか
いわれても不愉快極まりないんだけど

体調とかそんなこといいから、ねっ、

何が、ねっ、なのか、同意を求める意味がわからないが、
私も、病人にもう少し優しい言葉でもかけてあげられる、
あんな旦那の言葉くらいでスイッチが入らない
心の広い大人であったらな……

とは、内心思ったりもしながら
促されるまま部屋に入った。