ピーュルルー!ピーュルルー!
けたたましくモンスターの鳴き声が響き、目を覚ました!
「私どれくらい寝てた?」
「1時間も寝てませんよ?」
あきらかにさっきとは違う空気。樹木がザワザワと煽られ遠くで何か音が聞こえる。
誰かがフクロウと戦ってる!
「アリシア!」
「誰かがアイツと戦ってますね…」
耳をすまして音を観察する。。この魔術や、魔法剣の戦闘音。これは絶対にソーサラー!!しかも一人だ!
こんな時間に、一人でこんなとこくる?そんであんなにデカいのにソロで挑む?
般若姫?ありさん?いったい誰?
ありさんなら、きっとパーティ組んで来るはず…般若姫かな。。
飛び起きて、一気に戦闘モードへと準備する。
「アリシア!加勢しよう!」
「無理ですよ!お互いにこんなボロボロで回復も無いし、一撃で死んじゃいますよ!」
確かに…ターゲットがこっちに来たら私達は戦え無い。今の二人の状態なら一撃くらったら瀕死になるだろう…そうしたらモンスターの餌になるだけ。
「そうだ!前にミッションであったやつ!岩を挟んで戦うのあったじゃん?サテライトバスターなら岩ごしにでも届くよ!」
「でももし!サテライトしてる時に、他のモンスターが襲って来たらどうするんですか!」
マナスリンガーは、攻撃している時や装填の時に無防備になる。その瞬間に飛びかかって来られたらおしまいだ。
しかも音も凄いスキルだから、周りのモンスターを集めかねない…
「わかった!ならアリシアがサテライトでフクロウを叩いて。私は近接スキルでアリシアを援護する!」
「クロアさん、近接スキル取ってるの?」
「ノーティスマイトだけよ。でもこの魔砲でぶっ叩けば狼系だろうが、昆虫系だろうがぶっ飛ばせる!やろう!もうこれにかけよう!」
「わかりました…では私も準備します。」
アリシアの火力はトップクラス。そして、岩陰の見えない場所から遠距離でのサテライトバスター。
一人であんなでかいのに挑むソーサラー、きっとそこそこの手練に決まっている。アイツをぶっ倒して、そのソーサラーさんから少しでいいから回復を譲ってもらって、何としてもこの状況を切り抜ける。それしかない!
「準備出来ました。私がサテライトでアイツを叩く。クロアさんは私の援護でいいですか?」
「うん!任せて」
「もし…マジックポイント切れたらどうしますか?」
「その時は私が穴掘るから、朝までそこに隠れとこ!」
アリシアは笑った…
「ほんと…そういう所は適当ですよね!」
岩にへばりついてると射程が読めないから少しずつ岩から離れる。
大丈夫…まだ戦ってる。その人を援護して私達も生還する!
「クロアさん!いきますよ!」
「OK!援護は任せて!」
アリシアの魔砲からマナが天高く放たれる。
綺麗な線を描いて直下のモンスターへと撃ち落とされる。
一流のマナスリンガーだから出来る、見えない相手も撃ち落とす。それがサテライトバスター。
ピュー……
よしっ!モンスターにもヒットしてる!
「よーし!かかってこい!」
最後の賭け。何としてもアリシアに撃ち落としてもらう。私はアリシアの護衛!
放銃される音に引き寄せられるかのように、モンスターが現れる。大丈夫!アリシアには傷一つ追わせないんだから!
「クロアさん大丈夫?」
「大丈夫!全部ぶっ叩くよ!オラー!」
昆虫、狼、ドクロ、迫りくるモンスターを魔砲でぶっ叩いてアリシアをまもる。誰かが言うていた。魔砲は鈍器!きっとアリシアがあのフクロウを撃ち落とす!
「アリシア!そっちどぉ?」
「まだです!でも手応えはあるから!」
ピーュルルー……ピーュルルー……
さっきよりもフクロウの鳴き声は力がない。ソーサラーの設置音とアリシアの砲撃が静寂な森を覆い尽くす。
いける!大丈夫!きっと!
一通り集まってきたモンスターは倒した。あとはアリシア……どうか撃ち落として。
苦しい表情でアリシアはサテライトバスターを放っている。無理も無い…サテライトバスターは打ち手にも相当の衝撃が伝わるロストアーツ。
歯を食いしばってアリシアは砲撃を続けている。
目を凝らして周囲を警戒する。
ガサガサ…ガサガサ……
森のなかから巨大な黒い影…
えっ?
何これ!熊?
くまーーーー!
「ヤバい!ヤバい!デカい熊が出てきたくまー!」
「熊?なんとかして!こっちも手が離せない!」
「ヤバイよ!フィールドミッションのボス位のサイズ!」
「馬鹿なこと言ってないで!頭とかぶっ叩いてなんとかして!」
最悪だ、熊には鈍器は通じない。アックスやソードで切り刻むか、魔法でぶちのめすしかない。何とか装填して一撃あたえないと。
くっそ!アリシアにターゲット行かないように必死にぶっ叩いて距離をとる。叩いても叩いても熊は前進してくる。
ヤバい。凄い力だ。
「クロアさん!大丈夫?」
「大丈夫だけど…こいつマジで倒れない。そっちは?」
「手応えあるけど…あの…もしこのソーサラーが倒したあとサッサとどっか行ったらどうするんですか!」
「そこまで…考えて無かったぁぁぁ」
「なんでそんなに馬鹿でアホなの!こっちも限界よぉぉ」
ヤバい!装填する暇が無い。
どこか物陰で…なんとかこいつをかわさないと…
うぁぁ。
熊の一撃を魔砲で防ぐ。
伝わる衝撃……そして激痛。
痛い…今のは痛い…右手やられたかな…
うぅ…
鋭い爪で腕をえぐられた。
痛い。痛い。痛すぎる!
なんでこんな事に…
もう魔砲も持てない。だって!腕の感覚がないんだもの!
走馬灯のように皆の顔が思い浮かぶ。
ごめんね…みんな。頼んないマスターで……
またみんなで、ミッションしたりしたかったよ。本当にごめん……
きっと私は熊の餌になるから……
これからは熊を見たら私と思ってね…
その場で魔砲と共に膝から崩れ落ちた。
腕からは止まらない出血…
やられた。相当深くやられてる…もう無理…
アリシア…巻き込んでごめんね。どうか生き残ってね。
ちゃんとみんなに伝えてね…クロアは熊に食べられたと…
必死に戦うアリシアに視線を送る。
アリシアと目が合った。
泣いてる……そして笑顔。白い歯が見えた。
スチャ……
装填する音が聞こえる
「クロア!そこから離れて!行くよ!」
えっ?えっ?
アリシアの魔砲から閃光がはしる。
一目散に熊から逃げる。
全てが光で真っ白になった。。
ものすごい爆風…私も飛ばされた。