矢部太郎の「大家さんと僕」は、
今更あらためて紹介するまでもない、
大ヒット作だが、
矢部太郎の父は絵本作家のやべみつのりで
幼い頃から父の絵を描く姿を見て
育ってきたそうである。
そのため初めてマンガを描いたとは思えないような
詩的な表現が時々出て来るのだが、
その代表的な例が
大家さんと一緒にタクシーで
新宿に向かっている途中に
大家さんが「この道がまっすぐなのは、
戦時中に滑走路に使うためだったそうだ」
という話をしていると、いきなり、
乗っていたタクシーが宙を飛ぶシーンだ。
あまり画力がないので
派手なシーンにはなっていないが、
それがかえって詩的な効果を出している。
このシーンに限らず、随所に、
矢部太郎の繊細な視点で
大家さんの人柄が語られていて、
それがこの作品がヒットした要因だ。