今日の夕方、温泉施設に行って、
お風呂に入ったあと、
ロビーでテレビを見ながら
奥さんが出て来るのを待っていた。

 

テレビでは相撲中継がやっていて、
お風呂に入りに来た人たちが
取り組みの度に立ち止まって見ていた。

 

僕はそんなに相撲が好きというわけではなく、
ただテレビの前に座っていただけだ。

 

なんとなく矢野顕子の「ただいま」の歌詞、
「階段から手を振り駆け足してみたいな
テレビの相撲の音とか聞きながらね」
という部分を思い出していた。

 

中にひときわ声援がかかる力士がいて、
人気があるんだなと思って見ていたら、
取り組みの後に字幕で名前が出て、
貴景勝という力士だったとわかった。

 

ああ、引退した貴乃花の弟子だった人か、と、
さすがにそれくらいはわかった。

 

貴景勝は勝って、
次の取り組みの準備になった。

 

少ししてお風呂から出て来た、
ホカホカのじいさんが
「貴景勝は勝ちましたかな?」と、
僕に聞いてきた。

 

「勝ちましたよ」と、
僕は答えることができた。

 

「みんな相撲が好きなんだな」と、
僕は改めて思いながら
ふとちばてつやの
「のたり松太郎」のことを思い出した。

 

「のたり松太郎」は
もう30年くらいも前の作品で、
長崎の炭鉱で働いていた、
松太郎という荒くれ者が
相撲部屋に入門して
のらりくらりと相撲していくという
いぶし銀のような渋いマンガだ。

 

僕はちぱてつやの
こういう作品が好きで
今でも全巻持っている。
「おれは鉄兵」とかも。

 

あの頃からずっと
みんな相撲が好きなんだな、と、
そして千代の富士とか、
朝青龍とか貴乃花とか
北勝海とか貴ノ岩とか
色々な問題を起こした力士とか、
様々な思い出の断片が
次々と記憶に浮かんでは消えて、
なんとなくほのぼのとした気持ちになっていた。

 

そこに風呂あがりの
ペカペカの奥さんが現れて、
もしかしたら涙ぐんでいることに
気付かれやしないかと
少しドギマギした。