マンガ「重版出来!」の中に、
とてもいいエピソードがあった。

 

うまく文章で書けるか自信がないのだが、
それはこういうエピソードである。

 

ある大御所マンガ家のところに、
ベテランの古参アシスタントと、
新人アシスタントがいる。

 

古参は雑誌にマンガが載ったこともあるが、
ネーム(アイディアの原案)の段階で、
なかなか担当編集者のOKが出ず、
次作を発表することができないでいる。

 

新人は才能とやる気に満ち溢れているが、
画力が足りないため、大御所のところで、
絵の修行をしている。

 

ある日行き詰った古参が、
新人のネームを盗み見てしまい、
その圧倒的な才能に激しく嫉妬し、
そのノートにインクをこぼし、隠してしまう。

 

そのことに気付いた大御所が、
自分がインクをこぼしたことにして、
新人にネームのノートを返す。

 

他のアシスタント仲間も新人のノートを一緒に探していて、
その時、古参が書いたネームのコピーが出て来る。
新人はそのコピーを読ませてほしいと言うが、
古参は内心「読むな、俺をあざ笑うな」と思う。


ところが新人はそのネームを読んでボロボロと涙を流す。

 

それは担当編集者にも、
アシスタント仲間にも理解できなかった、
古参のネームの本当の意図を理解して、
それに感動して涙を流したのであった。

 

古参は「ここまで深く作品の意図を読み取れるとは、
こいつの才能は末恐ろしい」と思い、
自分の限界を知って引退を決意するのである。

 

実は同じような経験は僕にもある。
僕が考え抜いて、
自信満々にプレゼンテーションしたアイディアの意図が、
相手に全く伝わらず、ポカーンとされたことは、
一度や二度ではない。

 

ところが現実はマンガのようには行かず、
僕の才能を遥かに凌駕して、
その企画の意図を理解してくれる後輩になんて、
お目にかかったことはないのである。

 

そのおかげで僕は引退を決意する必要はなかったが、
結局は誰からも企画の意図を理解してもらえず、
結果的には引退しているに等しい状態なのである。

 

まあ現実は僕の企画が、
ただ面白くなかっただけかもしれないんだけどね。