自分に必要なものとの出会いは
必ずベストなタイミングで用意されている。
これは、これまで僕が何度も書いてきたことだが、
数日前レンタル屋でDVDを探していたら
「TATSUMI」というアニメ映画が
新作として並んでいた。
これはマンガ家辰巳ヨシヒロの
自伝的マンガ「劇画漂流」をベースにして、
辰巳の短編5編を折り込んだ、
トリビュート映画であった。
そういえば最近、
辰巳ヨシヒロが亡くなったという
ニュースを目にしていたし、
そのせいかわからないが、一週間ほど前に
「劇画漂流」を再読していたばかりだった。
しかしこのタイミングで
レンタル屋で「TATSUMI」とは、
あまりに出来過ぎではないだろうか。
つい借りて見てしまったが、
このアニメが辰巳ヨシヒロのマンガを
とても忠実に、
原作の雰囲気を損ねずに映画化しているのだ。
しかしどうしてこのタイミングで、
どういう意図や資本でこの映画なのだろう、
そしてこのクオリティーの高さは何だ?
と、解せないことが多かったのだが、
エンドロールで、スタッフの名前が、
ほとんど全部カタカナだったので、
更に謎が深まった。
特典映像でメイキングのようなものがついていたので、
それを見たら少しは事情がわかったのだが、
この映画は、シンガポールのエリック・クーという映画監督が、
辰巳の作品に共感して、未完成だった「劇画漂流」の、
続きの部分を辰巳本人に新たに書き起こしてもらい、
更にナレーションも辰巳自身に読んでもらって、
2011年に完成していた映画で、
カンヌにも出品されていたようである。
エリック・クーは僕と同世代の監督であった。
でもウィキペディアで探しても見つからない、
日本ではあまり知られていない監督のようであった。
エリック・クーの辰巳へのリスペクトはとても強く、
外国の若い監督に、
辰巳がこんなにも賞賛されている、
そして信奉されているというのが、
不思議なくらいであった。
僕はつげ義春は好きだったが、
辰巳ヨシヒロの作品はあまり好きではなかった。
あまりにも暗く、救いがなさ過ぎると感じていたのだ。
そんな辰巳の作品をここまで愛し、
こんな素晴らしい映画にしてくれる人がいる。
しかも外国人で、息子のような若い世代の人である。
やはり辰巳の作品は、国を超え、世代を超えて、
人の心に語りかける「何か」を持っていたのだ。
社会の片隅で、マンガ業界の片隅で、
PTAや評論家からは「俗悪」とのレッテルを貼られ、
メジャーな作家や編集者からも異端視され、
あまり報われることのなかった辰巳ヨシヒロが、
あくまでも自分の姿勢を貫いて、
「漫画」に対して「劇画」という言葉を造り、
ずっと続けていた表現活動が、
こんな形で評価されるなんて、
これ以上の喜びはないのではなかろうか。
この映画が作られた時、
辰巳ヨシヒロは75歳であった。
そしてその数年後に亡くなっている。
こういう決着のつき方もあるんだなあと、
感慨ひとしおであった。
