コンビニを出た二人と一匹は、南のゲートに向かった。
夜の間うろうろしていた「彼ら」は、すでにその姿を隠していた。どうやら彼らは、夜のほうに動き回る夜行性みたいなものだと、菊斗は思った。
「へへっ。早く来て、お兄ちゃん・ジーン!」
「ワン!」
愛桃が走り出すと、子犬がその後を次いだ。愛桃は子犬の名前を「ジンジャー」と名づけた。以前みた生姜の花がとても綺麗だったので付けたそうだ。普段は縮めてジーンと呼ぶことにしたらしい。
菊斗は二人が遠くにまで行かないか心配はしたが、元気がないよりはこっちのほうがいいと思いながら、歩き出した。
菊斗たちは南のゲートに前に到着した。
ゲートといっても、特にどデカい門が構えているとかじゃなく、ただ「ようこそ河南へ!」が書かれている大型の道路標示版があるだけだった。
ゲートの前には、北西の都心出口と同じく事故に遭った車が多数散乱していた。
数はそれほど多くなかったので普通に歩いてくぐることができたが、菊斗は昨日の記憶がよみがえり、かなり不安になってきた。しかも、車の通ったところからは、また深い霧で遮られていて、不安はもっと加速された。
「うぅ…」
さっきまではしゃいでいた愛桃が、菊斗の上着の裾をぎゅっと握り閉めた。
菊斗たちは、霧の中に重い一歩を踏み出した。
菊斗はまた穴がないか、足元に気をつけながら一歩一歩を踏み出した。幸い、10分くらいを歩いたが穴などはなかった。
霧の中は、何の痕跡もなくきれいな状態だった。ただ、両脇に鬱そうな木々で囲まれている一本道のだけだった。
このまま行くと、街の外に出られる。
菊斗は希望と期待に満ちていた。それにつれ、足も少しずつ速くなっていた。20分近く歩いた頃、やっと霧が薄くなり、前方に何かが見えてきた。
車だった。
菊斗は、やっと街を出られたと思ったが、それに近づくに連れ、違和感を覚え始めた。
車の形がはっきり見えてきて、菊斗はその違和感が何かを、分かった。
さっきと同じ場所だ。
菊斗が街を出られたと思ったその場所は、さっき霧の中に入っていった南ゲートだった。
くそっ、道にでも迷ったのか?
しかし、ゲートからの道は一本道。迷うはずがない。
それとも、方向感覚がおかしくでもなったのか?
菊斗は、愛桃とジーンにしばらくゲートの前にいるように行った後、また霧の中に入っていた。
はぁ、はぁ。
菊斗は霧の中を全力で走っていた。
さっきはかなり恐る恐る歩いていたので、20分近くかかったが、今の菊斗の全力なら5分もかからない距離だった。
しかも、ひたすら直進で疾走することで、方向感覚を失うこともない。
霧の中に入って、4分くらいが過ぎたころ、霧は薄くなり、また車が見えてきた。
しかし、霧の先にあるのは、また南のゲートだった。
くっ…
胸に重りでも乗せられたように、気持ちがどんと重くなってきた。菊斗は訳が分からなかったが、とにかく霧を抜け出るしかなかった。
「ふえぇぇん! どこ行ってたのよー! お兄ちゃん!」
菊斗が霧を出た途端、愛桃が涙目でジーンを抱っこして走ってきた。彼女の顔は、怒りと安心がごちゃ混ぜになっていた。
泣き声ではっきりとは分からなかったが、どうやら菊斗は霧の中に入って3時間くらい経ってしまい、もう戻らなくなってしまったんじゃないかと、愛桃は心配したらしい。
菊斗は何を馬鹿な…と、最初は思ったが、愛桃の後ろに見える町並みは、すでに夕日で黄色くなりかかっていた。確かに南のゲートに着いたのは、昼前だったはず…
何だ、これは…
もう驚く力もなくなった菊斗は、泣いている愛桃をあやしながら、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。