街の章 (10) | CRIS0302のブログ

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昔書いたやつをちょっとずつ直して、アップさせていただいています。

街の章 (10)

翌朝、菊斗は簡単に荷物をまとめ、家を出た。
北にある、都心に一番近い河南市の出入り口に向かうためだった。

霧はだいぶなくなっていた。視野が確保されると、今まで見えなかったいろんなものが目に入ってきた。
電柱にぶつかっている車や、割れた窓ガラスの破片、ところどころ見える引きずったような血の跡など、昨日の様子をよく説明してくれていた。しかし、昨日の警備員の「彼」みたいな姿だけは、見当たらなかった。

菊斗がまず向かっているのは河南市の旧市街の交差点だった。

河南市は、北西から南東を貫く大通りを基準に、南部を旧市街、北部を新市街と分けて呼んでいる。(菊斗の家は、旧市街の下部分にある)
新市街の町並みは、企画されたきれいな形をしているが、旧市街は道や建物の配置とかもかなりバラバラで、細い小道も多かった。
だけど、この辺りに詳しい菊斗には、むしろ旧市街は小道を隠れ場として使うために好都合だった。

「パン! キィィィィッー!」
交差点が見え始めた頃、交差点の左角を曲がったところから、何かが割れる音と一緒に車の急ブレーキを踏む、鋭い音が聞こえてきた。
菊斗はとっさに身を隠し、様子を見た。

「ドン!」
車が交差点に現れ、止まった。右後ろのタイヤはボロボロになった、中型のバスだった。
しばらく見ていると、プシュッという音と一緒にドアが開いた。

バスから降りたのは、黒い軍服のような服装をした、二人の男だった。
菊斗は最初、彼らになってしまったんじゃなかいかと疑ったが、それは違った。二人がしゃべり出し始めたからだ。

「くそっ! 何で急に…」
「うわぁー派手に割れちまったな」
降りてきた男が首を触りながら愚痴をいうと、もう一人のほうが割れたタイヤを確認しながらつぶやいた。

「とりあえず機関に連絡だ。ちっ、面倒なことになったな…」
首を触った男はそういうと、再びバスの中に戻ろうとした。しかし、彼がバスの階段に足を置く途端、横から受けた衝撃で、短い悲鳴と一緒に倒れてしまった。

「ぐあっ!」
「な、何だ! 何で昼間っから飛び出てくるんだよ、くそっ!」
彼らだった。いつの間にかバスの周りに群れを作り、近づいてきている。
すでに先頭立っていた一人が、男を倒し、もう一方に襲い掛かろうとしていた。

「バン!」
何かが弾き飛ぶ音が、旧市街の交差点に広がった。
残った男が、彼らに向かい拳銃で応戦したのだ。一つの銃声と一緒に、彼らの一人が倒れた。しかし、それは逆効果だった。彼らのすべての視線が、男に集中されたからだ。

「バン! バン! バン!」
男は必死で銃を撃ったが、数には勝てなかった。結局、半分くらいに数は減らしたものの、残りの男も倒れてしまった。

待つんだ。
事が終わるのを待てば、交差点を通ることができる。菊斗の隠れている場所は、絶対彼らに見つかるはずがないから。

くそっ、なんて無力だ…
最初から菊斗も一緒に戦うという選択肢もあったが、菊斗には彼らと立ち向かえる勇気などない。
人が傷つくことはいやだ。だけど、傷つけるのはもっといやだった。
菊斗はただ待つことしかできなかった。

「トントン…」
その時、バスのドアのほうから、足音が聞こえた。
もう一人、バスの中に人がいたのだ。

男たちの仲間だろうか。…いや、それにしては足音が小さすぎる。

バスのドアから恐る恐る姿を現したのは、小さな女の子だった。