街の章 (1)
とても深い霧だった。そして、その霧を切り分けながら、一人の少年が道を歩いていた。
朝確認した時はこういうのはなかったのにな…
彼は頭の中でつぶやきながら、ケータイのアプリをいじった。再度確認しても、やっぱり霧に関する情報はなかった。
彼は若干黒めの緑色の制服を着ていた。それは、この「河南(かわなみ)」市の唯一の高校の制服だった。
河南市は人口15万くらいの結構規模のある街だったが、都心からは離れ、ほとんどの人が住宅目的として訪れる、いわば「ベッドタウン」のようなところだった。そのせいで、小・中学校は数が揃っているものの、我が子は都心のほうに行かせたいと思う親心から、高校はたった一つしかなかった。
登校中の彼が、高架下から階段を上ってくると、霧の分け目から見える日差しが、一瞬彼を照らした。彼の左胸ポケットについてる名札が、光った。
「碧 菊斗 (あおい きくと)」
しかし、その光はすぐに霧の中に隠れてしまった。