「ククッ… ハハハ! いいな、お前! 気に入ったぜ!」
男が低い声で大笑いをしながら、大剣を菊斗の頭上から取り収めた。それに合わせ、菊斗も木刀を収め、何歩か後退した。二人はしばらく、お互いの様子を探った。男はニコニコしていたが、菊斗はまだ警戒を怠らなかった。
「お、お兄ちゃん、外…!」
その時、愛桃が菊斗の後ろにある玄関ドアを指差しながら、話しかけた。ガラス張りになっているドアの向こうには、「彼ら」の群れが近づいていた。数はおよそ20以上はあるようだった。
くそっ!
菊斗は、男との戦いに夢中で、音が広がるのを気づけなかった。建物からかなり響いた音が、彼らを招いたのだった。
「ハッ! じゃ、ここは共同戦線といくか。おい、少年!」
男は振り向いた菊斗に何かを投げた。それは腕輪だった。
腕輪は腕にはめる部分と、紐でできた指にはめる五つの穴が付いている部分があった。まるで指はめグローブを、太い紐で作ったような形だった。
手のひらに当たる部分には、爪一つくらいの大きさの石が付いていて、かなり鋭く尖っていた。腕輪をつけると、石はちょうど手のひらの真ん中に位置する。
菊斗が受け取ってから怪しいという視線をやめなかったので、男は説明をした。
「まぁ、役に立つもんだから身に着けておけ。使用するにはな…こうして…握る!」
男は腕輪を付けた菊斗の手を拳を握らせるように、自分の手でぎゅっと握った。
くっ!
チクッとした痛みと共に、血が少しにじみ出た。腕輪の石が手のひらに刺さったのだ。菊斗は疑いのめで男を睨んだが、男はかまわず説明をつづけた。
「まぁ、最後まで聞け。イメージしてみろ。今の木刀でもいい。頭に武器をイメージするんだ」
菊斗は男が何を言っているか全く理解できなかったが、彼の真剣な眼差しに説得され、まずは言うとおりにやってみた。
その瞬間、石が光った。そして、石を持っていた手には、木刀と全く同じ形の刀が握り締められていた。色は透明な薄めの青がかかっていて、まるでガラスのようだったが、先は鋭く、刃の面からは木刀とは全く違う殺傷力を見せていた。
はぁ! はぁ!
だが、その刀の出現と同時に、菊斗の息が大きく乱れた。まるで体の気力が吸い取られた気分だった。
「おぉ! 期待通りだな! どうだ、すごいだろ?」
菊斗の疲れた形跡には構わず、男がドヤッとした顔で自信満々に話した。菊斗は、頭から疑問が噴水のように湧き出ていた。
だがその顔を見た男は、彼らに叩かれている玄関ドアを示しながら、背中に収めた大剣を取り出した。
「詳しい話は後だな。まずは、あれをどうにかする必要があるな」
菊斗もそこには同意した。二人は、今すぐにでも割れそうなガラスドアに向かった。
菊斗はあんな多数の彼らを相手にしたことがなかった。しかし、戦いはスムーズに終わった。
菊斗に新しくできた武器も一役を買っていたが、何よりも男の強さがすべてを一瞬で終わらせたのだった。
はぁ… はぁ…
菊斗はロビーで仰向けになり、荒くなった息を整っていた。戦いが終わると、さっき出てきた刀は粉々に割れ、なくなってしまった。
「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
「ワン!」
愛桃とジーンが心配そうに駆けつけてきた。菊斗は、自分の顔をじっと見ている愛桃の頭を、ニコっと微笑みながら軽く撫でた。
「よう、もう大丈夫か? 付いて来な。上にある休憩室だと、一晩くらいは安心して寝れるぜ」
疲れた形跡を微塵も見せていない男が、菊斗に左手を差し出した。彼の左手には、螺旋の形をした、大きな刺青が入っていた。
菊斗は男の手を握り、立ち上がった。そして、床に落ちている木刀を拾い上げ、愛桃と一緒に非常口に向かう男の後を付いていった。
「あー、そうだ。俺の名はヴェインだ。ヴェイン・ウルフ。まぁ、自己紹介は後でもいいな。まずは色々聞きたい事がたくさんあるだろうからな」
ヴェインは、ニコッと笑いながら、非常口の階段を上がった。菊斗たちも、彼に続いて非常口に入った。
「ポカン」
その時、菊斗の手にあった木刀が、真っ二つにされ、床に落ちた。両断面がきれいなことから、ヴェインの大剣によって切られたに違いなかった。さっき、菊斗が彼の顎を狙った際、すでに木刀は真っ二つにされていたのだ。
さっき彼らは相手していた動きから考えると、きっと、菊斗の時は手加減をしたに違いなかった。
はぁ。
菊斗はため息をして、木刀をロビーに置いたまま、階段を上った。
