最も保守的な人間だったはずの俺が、なぜか、転職してしまっている事実。
時はバブルだったが、大したとこには就職できそうもないことを思い知らされて、「どこでもいいけど、ダメ元で、一番厳しそうな証券会社に入れば、鍛えてもらえるんじゃないか?どうせだめでも、厳しい世界で働いた経験が転職の際に評価してもらえるんじゃないか?辞めるまで、少しは甘い汁も吸えるかもしれんし」っつー甘い考えで、就職を安易に決めて。
大間違いだったな。
甘い汁は吸えんし、転職市場で潰しの効かない仕事つったら、「一に証券出身、二に保険出身」が合い言葉みたいな感じだった。
入社してすぐに株価暴落して、バブルが崩壊し、損失補填問題で世間に叩かれて、根性のない人間が一気に業界から人が溢れ出たもんだから、「証券出身は使えねえ」というイメージが出来上がってしまった。
入ったばかりで、なんにも業界で経験してない俺なんかが、いざ転職を考えようたって、先輩らがいち早く飛び出しってったもんだもんで、イメージを覆す何をも持ってなかったから仕方ない。
先輩連中の話では、入社2、3年目からボーナス100万円だっただの、東証の出来高が更新されると大入り袋が出ただの、ヨダレの出るような話を何度も聞かされたが、自分らは一度もそんな恩恵に浴することはなかった。
今になって思えば、結果的にはそれで良かったと思えるが、当時はそうでもない。
一年先輩が前年にもらったボーナスの半分以下なんて許せなかった。
入社1年目だろうが、2年目だろうが、会社に貢献してないのは、大して変わりない。
それが入社時期の違いだけで金銭でそこまで差をつけられることが不条理で腹立たしかった。
だから、同期のできそうなやつから辞めてった。
できそうじゃない俺は会社に残るしかなかった。
ところが1年目の後半に、いきなり損失補填がどうのこうのが大問題になった。
なんか知らんが、この対応に巻き込まれることになった。
まったく関与もしてない一年坊主が非難される。
不条理もここに極まれり。
と、思いつつも、当局の検査に応対させられて感じたのは、「これって、平時じゃ、絶対に経験できないことだよな?しかも意外と面白いじゃん!」ってことだった。
怖そうな検査官に、一年坊主が接して、「あれ持って来い、これコピーしろ」って言われて、コピーしようとして、なにげに見れば会社の極秘文書。
一年坊主が、会社の極秘文書に目を通す機会なんて普通じゃありえん経験。
そんで、普段偉そうにしてるお偉いさんが、検査官の前で平身低頭してる光景は、カルチャーショックだった。
当時のMOFの検査なんつったら、お白州に引き出される農民みたいな感じで、とにかくすごかった。
朝10時にデリバリーのコーヒーを出して、お昼には高級弁当を用意して、3時にはケーキと飲み物をお出しするのが定番みたいな感じ。
上司からも散々脅かされて、「検査官には45度の角度でおじぎをしろ!」って怒られたもんだ。
まるで漫画の世界だった。
それでも、日常的に検査官に接してると、「別に、そんな高圧的な態度は取らないし、見てると相手も普通の人じゃんよ」って感じて、こっちも普通に接してたりしたのだが、そのオレらの態度を見て、上司がまた怒る。
「お前ら、何考えとるんじゃ!」って。
そんで、当人たちは、オレらに言うように、45度の角度でおじぎしてる。
その落差の大きさのすごさといったらなくて、笑けて仕方なかった。
マニュピレーションがどうのこうのとか、チンプンカンプンの用語が検査官から発せられて、「それって何?」みたな感じで結構勉強になった。
フランクな検査官はオレらに「土日に資料持ち帰って、仕事しなきゃいけないんだよ」とか普通に話をしてくれたりして、「この人らも大変なんだなあ」とか。
リリー・アレンを聴いてたら、カーディガンズを思い出した。