岸田首相の新しい資本主義構想
また、最高所得層で55%の所得税に対して
現在は一律20%のキャピタルゲイン税を引き上げる計画も提示
この2つの税率の差は、図1に示すように、日本で所得が約1億円を超えると
実質的な税負担が減り、「1億円の壁」と呼ばれている。
図1. 日本の所得税負担
出典:久永(2022)、p.11
しかし、キャピタルゲイン税の引き上げ計画は
抵抗と株価下落により撤回された。
2021年、岸田首相が9月30日に計画を発表した後
日経平均株価は11日連続で下落し、10月11日に撤回
その後、2023年に日本政府は、30億円以上の収入がある超富裕層のみを対象に
キャピタルゲイン税を最大22.5%まで引き上げる限定的な措置を導入
キャピタルゲイン税の引き上げにはあまり成功しなかったが、新しい資本主義は存続
首相としての最初の演説で、再分配なしに成長はないということを強調
当選後まもなく、首相官邸の下に「新しい資本主義実現会議」を設立
岸田首相が議長を務めるこの会議は、政府関係者、企業代表
労働者、専門家からなる定期的な会議を組織し始めた。
2021年11月の会議で、政府は「新しい資本主義への緊急提言」
と呼ばれる文書で改革計画を発表
“Urgent Suggestions for a New Form of Capitalism.”
政府は、成長と分配が好循環を形成する持続可能な
株主資本主義の創出を強調
この計画には、グリーン経済変革を包含する成長戦略が含まれている。
分配戦略は、脆弱な労働者の賃金上昇、賃金格差の縮小
人的資本への投資促進、企業の賃上げ支援をカバー
2021年12月には、外的ショックによるコスト上昇が
下請け価格にスムーズに転嫁されるよう、政府が大企業と中小下請け企業間の
公正な取引を監督するという政府の新たな計画が
‘Grand Design and Action Plan for a New Form of Capitalism.’
2022年6月、日本政府は「新たな資本主義のグランドデザインと実行計画」を出した
同文書では、自由放任主義から福祉国家、そして新自由主義への
自然な進化の次の段階として、新たな資本主義を示している。
新たな資本主義とは、不平等や気候変動に対処しながら
市場と国家が、共に人々の幸福を実現しようとするシステムである。
成長の果実を公正に分配することが、持続可能な成長への投資であり
日本は賃金上昇、公正な貿易、より良い教育に努めるべきであると主張
政府は人的資本、科学技術、スタートアップ、グリーンテクノロジーと
デジタル技術の変革に戦略的投資を行うと発表
具体的には、人的資本と分配への投資には、企業の賃金引き上げに対する
政府の補助金や下請け企業による納品価格の適切な設定など
賃金上昇と労働者の訓練のためのいくつかの計画が含まれている。
2022年11月には、資産所得の倍増やスタートアップ企業の促進などの計画
2023年5月には、労働者のスキル向上と職務賃金の導入に向けた
労働市場改革の3本柱の計画が提示された。
日本政府、特に新しい資本主義実現会議が継続的に計画を更新し
フォローアップしていることは注目に値する。
総じて、新資本主義の計画は、世界金融危機後に国際機関が提唱した
包摂的成長戦略と概ね一致しており、アベノミクス第2期の主要理念にも沿っている。
また、バイデン政権の特徴である産業政策の復活や
現代の供給経済学とも整合している。
世界経済フォーラム主催の2022年「バーチャル・ダボス会議」におけるジャネット・L・イエレン財務長官の発言
家計と企業のバランスシートはパンデミック以前よりもさらに健全です。
現在まで、長期失業、負債、立ち退き
破産の大幅な増加や継続的な増加は見られません。
これは世界金融危機の余波とは対照的です。
[Kang-Kook Lee, “Kishida’s New Capitalism” Phenomenal World, June 6, 2024]〔This article was originally posted on Phenomenal World, a publication of political economy and social analysis. All rights, including copyright, belong to Phenomenal World.
本記事は、政治経済と社会分析の専門誌『Phenomenal World』誌に掲載されたものであり、翻訳許可を受けてここに公開している。著作権等の権利すべてPhenomenal Worldに帰属している。〕
岸田政権の「新しい資本主義」とやらは
アベノミクスとそうたいして変わらないようだ。
1億円の壁に言及し、資本稼得(キャピタルゲイン)課税に失敗
この1億円の壁は、非常に根っこの深い問題で
勤労所得と不労所得を分離して、分離課税にしているところが
問題の本質と言えるだろう。
併せて総合課税方式にすると主張する者も多いようだが
資本で稼得した所得は、分離してよいが、大幅に累進性を強化する必要がある。
現代の資本は、コンピューター技術とAIの進展によって
大幅に動きを加速させている。
これは非常に憂慮すべき事態で
このこと自体が、資本主義の不安定性をより鮮明なものにしている。
キャピタルゲインに対して、課税を強化しなくては
株式、債券、証券、為替レートなどが目まぐるしく動いてしまう。
ここの部分に大幅な累進税率を課すことで
不安定性をかなり緩和できる。
例えば、1000万までなら10%、2000万なら20%
1億を超えると、90%まで課税を強化すれば
現代の非常に複雑になった金融に対して
規制強化といった面で、相当な成果を上げられる。
金融は、規制を緩和すればするほど
資本主義の不安定性が露出し、それが限界点に来た時、金融危機は起きる。
リーマンショックという世界金融危機を発生させても
彼らは、性懲りもなく、同じことを繰り返している。
また分配と成長についてだが、現実経済においては
脆弱な労働者の賃金上昇、賃金格差の縮小
人的資本への投資促進、企業の賃上げなどは見られない。
むしろ正反対のことが起きており
総需要不足下での悪いインフレによる実質賃金の低下
それも2年を超え、25ヵ月連続下落で記録を更新中だ。
自由放任主義、福祉国家主義、そして新自由主義に移行というが
自由放任主義と新自由主義は同義であるが、福祉国家は正反対
つまり意図するところは、現在の高齢者を切り捨て
さらに続く高齢者予備軍も、ばっさり切り捨てることを明言している。
実に恐ろしい提言であり、ナチ化している狂気すら漂わせている。
この国では、もはや年を取ることは罪のようで、罰を受けることが確定している。
次は、岸田総理の「新しい資本主義」をいったん中断して
現在、主流派である現代の供給(サプライサイド・新古典派)経済学を見ていこう。
The optimistic perspective on inflation is that latest numbers are noise so better off smoothing over 6 or 12 months.
— Jason Furman (@jasonfurman) April 26, 2024
The pessimistic perspective on inflation is that it is turning back up. pic.twitter.com/xyMis7Z3ue
The PCE-based Ecumenical underlying inflation measure was 3.0% in March, down 0.1pp from February. This is the median of 24 different measures: 8 different bases over 3, 6 and 12 months.
— Jason Furman (@jasonfurman) April 26, 2024
FWIW, my own judgment is underlying inflation is 2.5 to 3.0%, probably top of that range. pic.twitter.com/DgIeSK2Zm1
今、彼らは悪いインフレを退治できずに、懸命に需要側に責任を転嫁している。
原因は、供給ショックによるものなのに
バカみたいに利上げして、アメリカの一般庶民の生活はひどくなる一方
その結果、アメリカ経済の先行きに、みんニャー不安になるしかない。